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死にたい僕ら  作者: うわの空
第3章 相葉理奈
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 ひんやりと冷たい刃物が、腕に当たる感覚。少し力を込めて、押し当てる。引く。

皮膚の裂ける感覚。その裂け目から一瞬見える白い肉。その白い肉は血で赤色へと変わり、溢れ出した生温かい血が腕を伝った。

 一定のリズムで、腕から滴り落ちる赤い血液。その温かさ。それが、自分の中の大きな穴を一瞬でも埋めてくれる気がする。気がするだけで、実際はちっとも埋まってなんかいないんだって、本当は分かってる。むしろその穴は広がる一方で、私が身体を切る度に悲鳴を上げながら、孤独を吐きだし続けている。

 自分の血の温かさでも、人の体温でも埋まらない何か。私はそれを埋める方法をずっと探してる。

 寒いのは嫌い。さみしいのも嫌い。誰かにそばにいてほしい。誰でも、いいから。

 なのに、人と一緒にいればいるほど孤独感が増す。自分は独りなんじゃないかって…ううん、自分は独りなんだって思ってしまう。こんなにたくさんの人がいるのに、私はずっと独りぼっちだって。それはきっと、昔から。

 血が止まらなくなると、孤独もどんどん溢れ出す。その反面、止まらなければいいのにとも思う。自分の中の汚いものが、血と一緒にすべて流してしまえればいいのに。

 私なんてどうでもいい。どうでもいいんだ。


「痛くないのか?」

 痛くないよ。どれだけ切っても、痛みなんて感じないの。後から少しだけ、痛くなるけど。切ってる間は痛みなんて感じないの。

「うそ」

 嘘なんかじゃないよ。痛くないの。本当に。

「痛いのはきっと、腕じゃないんだよ」

 彼女は私に向かってハンカチを差し出す。真っ白なハンカチ。こんな綺麗なハンカチに、私の汚い血をつけるなんてできない。

 ためらっていたら彼女は私の腕を掴んで、傷口の上からぐるぐるとハンカチを巻き始めた。白い布ににじむ赤。ああ、もったいない。

「本当に痛いのは、―…」

 何言ってるの?そんなことないよ。私は幸せだよ?ただちょっと、さみしがりなだけで。

痛くなんてないよ、どこも。この傷も、その傷も。

「だったらなんで、」



だったらなんで、私は泣いているんだろう。




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