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ひんやりと冷たい刃物が、腕に当たる感覚。少し力を込めて、押し当てる。引く。
皮膚の裂ける感覚。その裂け目から一瞬見える白い肉。その白い肉は血で赤色へと変わり、溢れ出した生温かい血が腕を伝った。
一定のリズムで、腕から滴り落ちる赤い血液。その温かさ。それが、自分の中の大きな穴を一瞬でも埋めてくれる気がする。気がするだけで、実際はちっとも埋まってなんかいないんだって、本当は分かってる。むしろその穴は広がる一方で、私が身体を切る度に悲鳴を上げながら、孤独を吐きだし続けている。
自分の血の温かさでも、人の体温でも埋まらない何か。私はそれを埋める方法をずっと探してる。
寒いのは嫌い。さみしいのも嫌い。誰かにそばにいてほしい。誰でも、いいから。
なのに、人と一緒にいればいるほど孤独感が増す。自分は独りなんじゃないかって…ううん、自分は独りなんだって思ってしまう。こんなにたくさんの人がいるのに、私はずっと独りぼっちだって。それはきっと、昔から。
血が止まらなくなると、孤独もどんどん溢れ出す。その反面、止まらなければいいのにとも思う。自分の中の汚いものが、血と一緒にすべて流してしまえればいいのに。
私なんてどうでもいい。どうでもいいんだ。
「痛くないのか?」
痛くないよ。どれだけ切っても、痛みなんて感じないの。後から少しだけ、痛くなるけど。切ってる間は痛みなんて感じないの。
「うそ」
嘘なんかじゃないよ。痛くないの。本当に。
「痛いのはきっと、腕じゃないんだよ」
彼女は私に向かってハンカチを差し出す。真っ白なハンカチ。こんな綺麗なハンカチに、私の汚い血をつけるなんてできない。
ためらっていたら彼女は私の腕を掴んで、傷口の上からぐるぐるとハンカチを巻き始めた。白い布ににじむ赤。ああ、もったいない。
「本当に痛いのは、―…」
何言ってるの?そんなことないよ。私は幸せだよ?ただちょっと、さみしがりなだけで。
痛くなんてないよ、どこも。この傷も、その傷も。
「だったらなんで、」
だったらなんで、私は泣いているんだろう。