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「俺はな、死にたがりじゃないんだ」
先ほどまで無表情だったレキが、ふっと嗤った。
「俺は逃げたいんだけなんだ。あいつが…良哉がどうだったのかは分からない。もしかしたらあいつは死にたがりだったのかもしれない。でももしかしたら、ただ逃げたかっただけなのかもしれない。家に引きこもるか、薬をたくさん飲むか。方法は違うけど、やりたいことは一緒だったのかもな」
レキはぼんやりした口調で続ける。
「俺は逃げたいんだよ。良哉の死から。その責任から。俺はあいつを殺した。あいつを殺した直接の原因じゃないんだとしても、追い詰めた人間の一人であるのは確かだ。だから俺は、人殺し」
目の前を歩いていた親子連れが怪訝そうな顔でこちらを振り返った。だが、レキはそれを気にする風でもない。
「お前がどうなのかは分からない」
ぼんやりしていたレキの声が、急にはっきりした。春彦はレキの方を向いた。真っ黒な瞳が、真剣にこちらを見つめる。
「お前がどうなのかは分からない。だけど、リナとユウは間違いなく死にたがりだ。それと同時に、生きたがり。…シオン、俺はな。死にたがりを死なせたくないんだよ。もう2度と、あんな思いはごめんなんだ。それが、自殺部を作った本当の理由」
春彦は、何も言えなかった。無言の時間が続く。春彦は色々なことを考えてから
「レキ」
レキの真剣なまなざしをまっすぐ見返しながら、言った。
「俺は死にたがりだ。そして…人殺しでもある」
人殺し、という言葉を聞くたびに思い浮かぶ映像。狭くて薄暗い部屋。「殺して」と言う彼女の声。粘度のある赤い液体。そして彼女の、顔。
春彦の言葉を聞いたレキは、冷静な顔だった。そして確認するようにゆっくりと言った。
「…俺は人殺しだけど、死にたいとは思ってない。だけどお前は…死にたいのか」
いつもふざけていると思っていたレキは、真剣だった。春彦はうなずいた。
「ああ」
「だったら」
レキが、手にしていたドリンクを一口飲んでから、言った。
「俺はお前を止めるよ」
春彦にとって、レキの第2印象は「良いやつ」だった。
しばらくしてからこちらにやってきたリナは、大きなヌイグルミを抱えていた。園内のゲームセンターで取ったらしい。首の長い、羊のようなもこもこの生き物。
「…なんて言うんだっけ、これ」
春彦が呟くと、「アルパカ」とユウが答えた。
「レキどう?薬大分抜けたー?」
「まあな。お前らは何乗って来たんだ?」
「ジェットコースターとバイキングとコーヒーカップと…」
「…いやもういい。聞いただけで酔いそうだ」
レキはさも気分が悪そうに、口に手を当てながら言った。
「レキお前…もしかして遊園地苦手なんじゃないのか」
春彦が訊くと、レキは苦笑した。
「乗り物は正直苦手だな。だけど、遊園地の雰囲気は好きなんだよ」
園内を見渡して、付け加えた。
「フワフワしてる」