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「青春パンクをするバカは、曲調よろしくパンツでも湿らせとけよ!」昨日のライブからこの言葉が離れない。
肌が痛い、肩が擦れて痛い、汗が止まらない。僕の名前は大学生だ。この春大学へ入学、軽音サークルでバンドを組み絶賛バンドマン中。今日はスタジオ練習のために移動中だ。エレアコを背負っているせいで、背中が汗ばんできたしそろそろどこかで休みたい。目に入った喫茶店に入ろうと思ったら、どこからかギターの音が聞こえる。蜃気楼の揺れるその向こう側。真夏の太陽がペグに照り返していた。
汗だくになりながら歌っていたその女性の足元には、投げ銭をもらうためにドカッと開かれたギターケースとSNSの告知の看板が小さく置かれていた。なかなかにいい。普段僕が聞くようなジャンルではないけれど、企業のCMで使われるようなさわやかな感じの歌だ。暑さも忘れて聴き入っていると、一曲終わってしまった。すると一言
「ギター抱えられてますけど、音楽やるんですか」
驚いた。なんとなく聴いていただけに。
「あぁ、サークルで少し」
もうちょっとなんか言えたかも。
「そぉなんですね、私もこんな感じですが、頑張ってください」
「ありがとうございます」
僕はなんだか恥ずかしくなってしまって、おもわずその場を後にした。
イソスタで名前を調べてみる。看板に書いてあったやつだ。スタジオで取ったかのようなアイコン、なんだか本物のアーティストみたいだ。なんと同い年、こんなに本格的なんだなぁと思っていると。スタジオ「SOUKUTSU」についた。ここは年期たっぷりヤニ臭たっぷりのスタジオだけど、とんでもなく安いから大学のみんなで使っている。防音ドアを開けると、メンバー三人がいつものようにしょぼくれた顔で迎えてくれる。
「じゃーはじめますかー」
赤髪ショート女ボーカルのアキが気だるげに言った。それに呼応して
「お」
長身ロン毛ベース男のハッスーが動き始めた
「っしゃ」
タイコーがリズムを刻む
「っちょっとまってくださいよー」
ガサゴソとギグバッグを漁る。J44僕の愛機だ。シールド、エフェクター、アンプとつなぐ。ゲインをぎゃんぎゃんにしてギャイーンだ。
ひととおり練習が済んで、少し休憩中だ。指が少しだけひりひりする。でも数か月も前だったらもっと痛かった。今ではタコができてなんてことない。エフェクターを調整しながら、メンバーを確認する。タイコーは耳にイヤホンでエアドラムいつも通りだ。アキとハッス―は、いつも通り見たことないタバコを吸っている。これぞパンクって感じ。
大学に入ってからというもの、音楽三昧だ。高校の頃は、好きだったけどそこまで熱中することはなかったな。やっぱりパンク、音楽に目覚めるってこういうことなのかも。お、アキがトニックウォーターを飲み終えた。そろそろ練習が再開する合図だ。
練習が終わると、いつもみんなで近所の中華料理屋へ行く。みんなで食べるご飯はおいしいし、何より同じ趣味を持った友人がいるというのがいい。最近はどんな音楽を聴いてる、次はこんな曲をライブでしよう。そんなくだらない会話がすごく楽しい。高校ではこんなに集まって話すことはなかったからな。サークルに入る前は、こんなに楽しいものなんて思いもしなかった。
だらだらと話しているとすっかり深夜で、バンドのみんなと別れた。夏の蒸し暑い空気は夜になってもなんだかワクワクする。でも昼間のあの子もいなくなって、なんだか静かな帰り道だった。
今日は朝から講義で大学にいる。時間はもう昼で、食堂へ行こうと思う。今日は学生感謝ウィークで安い定食がたくさんあるのだ。音楽活動ですっからかんの財布にも安心だ。食堂では、券売機から伸びている人の列が外にまで達しそうになったので、僕は急いで並んだ。昼時であるから、天窓からさす日差しが熱い。どれだけ人が並んでいるのか、列から顔を出してみると二人ほど前に昨日の路上ライブの女の子がいた。食券を買ったら話しかけてみよう。
列がだんだんと進み、僕も食券を買い終えた。彼女も僕と同じものを買ったようで、後ろに並ぶついでに話しかけた。
「あの、この前路上ライブしてたよね」
彼女は少し驚いたようにこちらへ向くと答えた。
「あれ、この前来てくれた人じゃん。同じ大学だったんだ~」
しまったな、まったく続きを考えてなかった。僕はとりあえず他愛ないことを話そうと話題を振った。
「いやぁ~、驚いたなぁ。ところであんなにギターうまいけどサークルとかは入ってるの」
長すぎたかもしれないなどとまごまご考えると彼女は自慢げに答えた。
「一応、軽音サークルは入ってます」
共通点を見つけてからの僕は速かった。
「僕もなんですよ~、そういえば来月のサークル内ライブでるんですか」
少し困ったように考えると彼女は言った。
「もちろん見に行くんだけど、出るのはしないかなぁ」
これは言うしかない、そんな確信を持って僕は言った。
「僕も出るんでぜひぜひ」
「うーん、考えてみる」
彼女が眉を八の字にするのを見て、僕は乾いた笑いをしてごまかした。そんな瞬間も、列が進めば終わって、僕たちは別れた。




