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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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盲目令嬢が目を開いた時〜婚約破棄されてしまいましたが、私を拾ってくれた公爵様が魔法で視覚を与えてくれました〜

作者: 夜分長文
掲載日:2026/02/06

 私、リゼ・アイリスは生まれ持って目が見えなかった。


 世界はずっと暗がりで、みんなが「この花は赤い」「葉っぱは緑色をしている」だなんて教えてくれたけど、言葉では分かったけど視覚的な色というものは知らない。


 何色かも分からない布で目を覆って、毎日暮らしている。


 お医者様から原因は分からないと言われている。先天的なものだろうとは言われているけど、現代の医術では治らないと言われた。


 大手商業ギルドを率いている由緒ある家庭だから、私は誰にも会わせないように家では屋根裏で過ごしていたし、パーティーにも出させてくれなかった。


 だけど……そんな私にも婚約者がいる。イアン・ウィズ様、伯爵という爵位を持つ貴族だ。王国内では発展した領地を治めており、若さも相まってかなりの地位と名誉を持っている殿方である。


 なんでそんなすごい方が……と私も驚いた。私よりも父がとても喜んですぐに婚約の提案を承諾し、私をイアン様の領地まで出向かせた。


 私はとても緊張していて、優しい方だったらいいなと思っていた。


 だけど……違った。


「俺は商業ギルドとの繋がりが欲しかっただけだ。目が見えない娘を貰えば、大層喜んでくれると思ってな」


 初めて会った時にそう言われた。私は馬鹿にされたみたいで逃げ出したかったけど、期待してくれている両親を裏切ることや、ましてやこんな大きな物事を流すことなんて、怖くてできなかった。


 こうして私は、しばらくイアン様と暮らすことを提案され、今も彼の邸宅で過ごしている。


「邪魔だ。どけよ」


「す、すみませんっ……」


 廊下の壁を伝いながら歩いていると、イアン様に後ろから突き飛ばされた。私は前から倒れて、どうにか手を付けたものの、足を打ってしまった。


 とても痛い……涙が滲んできた。


 私は顔を上げて、見えないながらもイアン様がいるであろう音のした方を見る。


「文句でもあんのかよ。お前には食事も与えているんだ。感謝してほしいがな」


 そう言って、イアン様は去って行く。彼は私の両親にはバレないように、殴っても傷跡を残らないようにしているし、衰弱しないように食事は与えてくれている。


 だけど……私は辛かった。


 逃げ出したかった。


「なんで……なんで私……何も悪いことしていないのに」


 思わず、イアン様の目の前で言葉を漏らしてしまった。


 瞬間、怒声が聞こえてくる。


「オレの目の前でよく言えたな!! 貴様、自分の立場を分かっているのか!?」


 イアン様が胸ぐらを掴んで叫んでくる。私はガタガタと震えながら、言い訳すらできないでいた。


「お前がそのつもりなら分かった! 今回の婚約はなしだ! せっかくオレがお前の家に興味を持ってやったのに、お前のせいで台無しになったんだ! ご両親は随分悲しむだろうな!」


 バン! と突き飛ばされて、壁に激突する。痛む背中をどうにか堪えていたが、その後無理矢理部屋に戻されて次の日には出て行けと言われた。


 私はただ頑張って生きているだけなのに。なんで……ずっとこんな目に。


 部屋の中で、私はしばらく泣いていた。


 椅子に座りながら、天井を見上げる。くんくんと鼻を鳴らしながら、窓があるであろう方向を見る。


 夜の匂いがした。なんて表現すればいいのか分からないけれど、なんとなく匂いで時間帯が分かるのだ。


 私は窓の方を向きながら、少し考える。


 もう、今すぐにでも逃げよう。


 ふと思い立ったことだったけれど、すぐに思考はそれで塗りつぶされる。


 逃げたい。逃げたい。逃げたい。


「逃げよう、もう」


 だけど、少しの理性が働く。


 私は逃げたところで、何もできない。


 仕事だってできないし、お金を稼ぐことだってできない。


 だけど、もうイアン様と一緒にいるのは嫌だ。


 私は立ち上がり、杖を持って廊下に出る。


 家の中では音を立てちゃいけないから、壁を伝いながら歩く。


 ずっと、心臓はドキドキしている。一人で家を出るだなんて、実家にいた時ですらしなかったことだからだ。


 家の構造は頭に入っているので、外に出るまでは簡単だった。


「よ、よし……」


 私は杖を持って、こんこんと地面を叩きながら歩く。私は歩きながらも、集中して魔力を研ぎ澄ます。


 何故かは知らないけれど、私には目が見えない代わりに魔力量が特別高かった。魔力の流れも手に取るように分かるくらいには練度が高いようで、魔法を使えば脳内に周辺の構造が浮かびあがるのだ。


 二つの道具を使いながら、しばらく歩いた。


 夜風も気持ちいいし、虫の鳴き声もする。人々の喧噪も少なく、静かな世界だった。


「夜だと、街ってこんなに静かなんだ」


 私はそんなことを思っていた。だが、杖がこつんと何かに当たる。


「す、すみません」


 感覚的に人に当たったような気がして、咄嗟に謝る。怒られるかなと思ってドキドキしていたのだが、予想とは違って優しい声音が聞こえて来た。


「こちらこそ申し訳ない。……君、もしかして目が見えないのかい?」


「え……はい」


 全く怒ってないような声に、私は弛緩する。


「しかもこんな夜遅い時間に一人で……何かワケありかい?」


 その言葉に、私は一瞬戸惑ってしまう。事実ワケありではあったからだ。


 どうしようか悩んでいると、男が笑う。


「すまない、怪しいよな。俺はエルマ・オア。公爵という爵位を持つ人間だ。身分の証明……になっているだろうか」


 名前を聞いて、私は驚いてしまう。エルマ公爵と言えば、王国内で極めて高い地位を持っており、王族とも関係の深い家系である。魔法研究の第一人者で、様々な実績もある。


 でも……どうして全く領地とは関係ない、この場所にいるのだろうか。


 そ、それよりも。


「私はリゼ・アイリスと言います。ここの領主であるイアン様と婚約を結んで……いましたが、婚約破棄をされて、一人で街を歩いていたんです」


 ひとまず自己紹介をしておいた。


「リゼ・アイリス……君が噂の。すまない、少しだけ時間を貰ってもいいだろうか。もちろん、お礼はさせていただく」


 どうやら私のことを知っているようである。まあでも、イアン様との婚約は結構大きなニュースにはなっていたようだから、知っている人がいるのも不思議ではない。


 それに……今の私には時間はある。


 生活もどうするか悩んでいるところなのだから、お礼があるのは大変ありがたいことだ。


 私は頷くと、エルマ様は嬉しそうにしながら歩きだした。どうやら、夜遅くまで開いている喫茶店があるようだ。


 向かう途中、エルマ様は何度も声をかけてくれた。


「どこの生まれなんだ?」「喫茶店に行くのは初めてか?」「あそこのコーヒー、結構有名らしくてな」とか。


 今までかけられたこともない優しい声音で、私は少し照れてしまっていた。


 喫茶店に到着したら、エルマ様は手を持って席まで案内してくれた。またも照れてしまう私。


 目が見えないから、エルマ様の姿は分からないけれど、きっと素敵な人なんだと思う。


 席に座り、エルマ様は語る。


「君と出会えて本当によかった。単刀直入に言うけれど、この領地に来た理由というのが、実はイアン伯爵の調査でな。かなり、よくない噂を聞いているんだ。何か……知っているか?」


 そう聞かれて、私は少し言葉に詰まってしまう。実際、色々あったのは知っている。


 貴族やギルドに賄賂を貰っていたり、都合良く動かすために脅しも使っていたなんて話も自慢げに話されたことがあったからだ。


 正直、言うかどうか迷った。


 恐らくエルマ様は、王家か何かから調査を依頼されたのだろう。


 だけど……私はすぐに話すことにした。


 イアン様に恨みを持っていたのは確かだ。突き飛ばされたり、罵声を浴びたり。悲しいことはいっぱいあった。


「貴族やギルドへの賄賂、恐喝とかはあったと本人から聞いています。かなり自慢げに話している様子でした」


「なるほど、ね。その事実があったなら、もしかして邸宅に何かしら証拠がある可能性はある?」


「多分……私に言うくらいなので、そこまで厳しくはやっていないと思います」


「そうかそうか……ふんふん」


 エルマ様はメモ帳に一通りメモを取った後、パタンと閉じる。


 嬉しそうにしながら、彼は笑う。


「ありがとう。本当に君と出会えてよかった。せっかくだから、コーヒー以外にご飯でも頼もう。高いものでも、遠慮なく注文してくれ」


 そう言いながら、エルマ様から何かを手渡される。多分、メニュー表か何かだと思う。


「あ、あの。私目が見えないので分からないです……」


「もちろん知っている。だから、これはもう一つのお礼だ」


 同時に、エルマ様が私の額に触れた。


 ドキッとしたけど、すぐに何か温かいものを感じる。


「実は俺、医療魔法を日頃から色々と研究をしているんだ。きっと、君はこれからの人生よくなる」


 すぐに理解した。魔力の流れを感じたのだ。


 これは魔法である。何かは……分からないけれど。


「あ、あれ」


 だが、すぐに思い知る。何か、分からないけれど、眩しいと思った。


 私が動揺していると、エルマ様が私の目を覆っていた布を外した。


 瞬間、情報の波が押し寄せてきた。


 見えたのだ。


 色が、光が、エルマ様の顔が。


「き、綺麗……」


 一番最初に出た言葉がそれだった。喫茶店の壁、窓からの景色、ほんのり温かい明かり、そしてエルマ様の姿。


 全てが美しいと思った。


 優しげでありながらも、大人びた顔立ちに優しげな表情。端正な顔だと思う。


 そんなエルマ様がメニュー表を指さした。


「文字は読めないだろうが……イラストが載っているだろう? たとえば、このトースト。バターが乗ってて、こんがり焼けていて、なんだかとろけてしまいそうな感じがしないか?」


 私は呼吸が浅くなるのが分かる。ひっくひっくと言葉がつっかえる。


 私、また泣いているんだ。


 だけど今回は違う。嬉しくて泣いているんだ。


「お、美味しそうです……! とっても、とっても」


 エルマ様は優しげな瞳を向ける。


「いい笑顔を浮かべるな。もし居場所がないなら、よければ俺と一緒に来ないか。見たところ、君の魔力は相当優れている。どうだ、俺の助手とか」


 私は驚いて、パッと顔を上げる。


「文字が分からないだろうから、文字も教える。世界を知らないだろうから、俺が世界を教える。だから、どうだ?」


 また、ぼろぼろと涙がこぼれる。嬉しい、本当に嬉しい。


「は、はい!」


 私はすぐに、エルマ様の提案を受け入れることにした。


 ◆◇◆


 リゼがエルマと出会って数日後。イアン邸は大騒ぎであった。


「ど、どういうことだ!? なんでオレのやったことがバレているんだ!?」


 イアン邸には、複数の憲兵が出向いていた。そしてイアンの身柄を拘束しようとしていた。


 イアンは逃げようとするが、憲兵の持つ実力によってすぐに捕らえられてしまう。イアンはギロリと憲兵を睨んで叫ぶ。


「オレほどうするつもりだ! オレに何かあったら、お前ら憲兵だって処罰があってもおかしくないぞ!」


 その言葉に、憲兵は淡々と返す。


「これは王家からの命令です。どうやらあなたは、婚約を解消する相手を間違ったようですね」


 その言葉を聞いて、イアンは動揺する。


「婚約……!? まさかリゼが!? おい、詳しい話を……ぐあっ!?」


 憲兵に殴られ、イアンは気絶する。これから先、イアンは投獄される。今までリゼにやっていたような、殴り罵倒され、そんな毎日を送るのだ。


最後まで読んでいただきありがとうございました。もし楽しんでいただけましたら、


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