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追放令嬢が推しをコタツで温めたら、逆に冷徹皇帝の熱愛で温め返されて溶けそうです  作者: 月雅


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第3話 魔王城、改造計画


「これが、最強の兵器か?」


ヴァングリード陛下が、怪訝そうに眉を寄せている。

彼の視線の先にあるのは、執務室の中央に鎮座させた四角いテーブルだ。


分厚い布団が掛けられ、天板が乗っている。

中には、私が開発した「魔石式発熱ユニット(弱)」が仕込んである。


「はい、陛下。名付けて『コタツ』です」


私は胸を張った。

材料はすべて、帝国の資材置き場から使用許可を得た「国家資産」である。

最高級の羊毛布団も、倉庫で眠っていたものを再利用した。

つまり、実質タダで最強の要塞を構築したのだ。


「中が温かいのです。騙されたと思って、足を突っ込んでみてください」


「……ふん。不敬な罠であれば即刻処刑だ」


陛下は疑り深く鼻を鳴らし、マントを翻してコタツの前に座った。

そして、恐る恐る長い脚を布団の中へ滑り込ませる。


一秒。

二秒。

三秒。


陛下の動きが完全に停止した。


「……ほう」


吐息のような声が漏れる。

強張っていた肩の力が抜け、背もたれ(座椅子も作った)に体重が預けられる。

冷徹な「氷の皇帝」が、瞬時にして「骨抜きにされた猫」へと変貌した瞬間だった。


「どうですか、陛下」


「……悪くない。腰から下が、湯に浸かっているようだ」


「でしょう? さらに、こちらをどうぞ」


私は盆に載せたオレンジ色の果実を差し出した。

皇室の温室で観賞用に育てられていた柑橘類だ。

酸味が強くて不人気だったそれを、私が土壌改良の錬金術で糖度調整したものである。


「『ミカン』です。コタツにはこれが必須栄養素となります」


「……奇妙な組み合わせだな」


言いながらも、陛下は私が剥いたミカンを口に運ぶ。

咀嚼し、目を丸くする。


「……甘い。これがあの酸っぱい実か?」


「はい。品種改良も私の職務範囲(契約内)ですので」


陛下は無言で二つ目のミカンに手を伸ばした。

そして、そのままコタツから出る気配を消した。


(勝った……!)


私は心の中でガッツポーズを決めた。

最強のラスボスを、コタツとミカンで封印することに成功したのだ。

これで彼の体温維持コストは大幅に下がり、呪いの苦痛も緩和されるはずだ。


だが、私の「推し救済計画」はこれで終わりではない。


     ◇


その夜。

私は大浴場の脱衣所に控えていた。


「エリゼ、準備はできているか」


「万全です、陛下」


湯気が立ち込める中、陛下が入ってくる。

もちろん私は目を伏せている。

直視したら情報量が多すぎて脳が焼き切れるからだ。

あくまで私は「専属錬金術師」として、新アイテムの臨床試験に立ち会っているに過ぎない。


「……湯の色が赤いな」


「血行促進効果のある薬草と、発泡性の鉱物を調合した『入浴剤』です。炭酸ガスが皮膚から浸透し、深部体温を上げます」


陛下は躊躇なく湯船に身を沈めた。

チャポン、という音と共に、お湯が溢れる。

シュワシュワと泡立つ音が響く。


「……っ」


くぐもった声が聞こえ、私は思わず顔を上げた。


そこには、湯船の縁に頭を預け、虚空を見つめる陛下の姿があった。

濡れた銀髪が頬に張り付き、赤い瞳が潤んでいる。

陶器のような肌が、熱でほんのりと桜色に染まっていた。


(神々しい……ッ!)


鼻血が出そうになるのを、私は鋼の理性で押し留めた。

これは介護だ。医療行為だ。

決して推しの入浴シーンを高画質で録画したいなどと考えてはいけない。


「……痛くない」


陛下が、夢を見るように呟いた。


「いつもなら、湯に浸かっても骨の芯が凍りついていた。……だが、これは……中まで温かい」


彼は自分の手を見つめ、握ったり開いたりしている。

その動作がスムーズだ。

呪いによる関節の強張りが消えている証拠だ。


「成功ですね」


私がタオルを持って近づくと、陛下がこちらを見た。

湯気のせいだろうか。

その表情が、今まで見たことがないほど柔らかく、幼く見えた。


「エリゼ」


「はい」


「お前は……魔法使いか何かか?」


「いいえ、ただの錬金術師です。そして、陛下の忠実な下僕ファンです」


「……そうか」


陛下は小さく笑い、湯を掬って顔を洗った。


「礼を言う。……久々に、生きた心地がする」


その言葉だけで、私の苦労はすべて報われた。

開発のために徹夜で調合実験をした疲れも、薬草臭くなった指先も、すべて勲章に変わる。


推しが笑っている。

それだけで、世界は平和なのだ。


     ◇


翌日。

すっかり体調が回復した陛下は、精力的に公務に取り組み始めた。

コタツは執務室の正式な備品として採用され、側近たちも交代で足を突っ込んでいる姿が見られた。


平和だ。

このままスローライフに突入したい。


そう思っていた私の元へ、商会長のハンス氏が訪ねてきた。

彼は帝国の財務を担当する、恰幅の良い中年男性だ。


「エリゼ様、素晴らしい発明の数々、感服いたしました」


「恐縮です、ハンス様」


「つきましては、ご相談が」


ハンス氏は分厚い帳簿を私の前に広げた。

そこには、真っ赤なインクで数字が羅列されている。


「……これは?」


「帝国の国庫残高です」


私は目を疑った。

桁が、足りない。

これでは来月の騎士団の給与すら怪しいレベルだ。


「……なぜこんなことに?」


「北国の宿命です。食料輸入、燃料確保、魔石の購入……生きるだけで金がかかるのです。これまでは陛下が個人の魔力で暖房を補ってきましたが、それも限界でした」


ハンス氏は深刻な顔で溜息をついた。


「エリゼ様のカイロやコタツは画期的ですが、それを量産するための『素材購入費』すら、今の国庫には……」


なるほど。

詰んでいる。


陛下が健康になっても、国が破産してはバッドエンドだ。

私の「ロイヤリティ契約」も、売上がなければ絵に描いた餅である。


私は帳簿を閉じた。

そして、ニヤリと笑った。


「ハンス様。素材がないなら、外から金をむしり取ればいいのです」


「……は?」


「私に一つ、心当たりがあります。金持ちで、見栄っ張りで、新しいもの好きの『カモ』がたくさんいる国が」


私は窓の外、南の方角を指差した。

そこには、私を捨てた王国がある。


「外貨を稼ぎましょう。あちらの貴族たちが泣いて欲しがる『美容アイテム』を売りつけて」


推しを救うためには、金が必要だ。

ならば、稼ぐまで。

私のオタク知識と錬金術があれば、経済侵略など造作もないことだ。


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