冒険者
白い魔石の価格が公表されたのは、夜のニュース番組だった。
――未加工の状態で、一個あたり二十万から三十万円。
――品質によっては、それ以上。
画面の向こうで、専門家が淡々と説明している。
医療用途への転用、治癒促進効果、研究段階ではあるが――そんな言葉が続いていた。
だが、男の耳に残ったのは数字だけだった。
二十万。
三十万。
思わず、リモコンを握る手に力が入る。
「……一個で、か」
六畳一間のアパート。
壁際に積まれた段ボールには、もう何年も前の引っ越し荷物がそのまま残っている。
テーブルの上には、半分残った安い焼酎と、冷めた惣菜。
独身。
四十代。
勤めていた会社は、去年、あっさりと潰れた。
再就職先は見つからないわけじゃない。
だが、見つかるのは、今より安い給料の仕事ばかりだった。
「……馬鹿げてる」
そう呟きながらも、男の頭の中では、計算が始まっていた。
一個で二十万。
もし二個持ち帰れたら。
三個なら。
ニュースでは、ダンジョンの危険性も語られていた。
負傷者。
死亡例。
軍ですら完全には制圧できなかった場所。
普通なら、ここで思考は止まる。
――関わるべきじゃない。
――命が惜しい。
だが、男は画面を消さなかった。
「……白い石、か」
何もない人生だったわけじゃない。
だが、何かを掴んだこともなかった。
若い頃に夢見たものは、いつの間にか「現実的じゃない」の一言で片付けられ、
気づけば、守るものも、失うものも、特に残っていない年齢になっていた。
だからこそ――
「……一回、くらいなら」
声は震えていなかった。
むしろ、不思議なほど静かだった。
命を賭ける理由としては、あまりにも不純だ。
正義でも、使命でもない。
ただの金だ。
だが、男は思った。
――それでもいいじゃないか。
――どうせ、このままでも何も変わらない。
テレビの画面には、ダンジョンの入口が映っていた。
コンクリートに囲まれた、無機質な穴。
そこが、
地獄なのか、
それとも、人生をひっくり返す場所なのか。
「……よし」
男は立ち上がり、スマートフォンを手に取った。
政府が発表した、冒険者資格の申請ページを開く。
画面の光が、暗い部屋を照らしていた。




