日本
日本政府の対応は、他国と比べても明らかに慎重だった。
ダンジョンを「資源」と呼ぶことすら避け、公式文書では一貫して「高危険度特殊災害区域」と記載されていた。
立ち入りには資格が必要。
それも、簡単な講習や身体検査では済まされない。
基礎体力、応急処置、集団行動適性、心理検査。
加えて、ダンジョン内での死亡を含むあらゆるリスクへの同意書。
合格率は、初回で一割にも満たなかった。
――命がかかっている。
それが、日本政府の一貫した判断だった。
結果として、参入できる民間人はごく一部に限られた。
海外からは「過剰規制」とも批判されたが、日本側は譲らなかった。
だが、その厳格さが生んだ副産物があった。
最初に気づいたのは、探索者ではない。
報道関係者だった。
政府が義務付けた記録用ドローン。
探索者の頭上を静かに浮遊し、進行ルート、戦闘、環境変化をすべて記録するためのものだ。
当初の目的は、安全管理と事故検証。
だが、その映像は――あまりにも「見応え」があった。
異様な地形。
未知の生物。
人間が命を賭けて踏み込む、現実離れした空間。
編集された映像が、試験的に公開された瞬間。
再生数は、想定をはるかに超えた。
「これ、金になるぞ」
誰かが、そう呟いた。
危険であること。
簡単には真似できないこと。
そして、日本政府の厳しい資格制度によって、出演者が自然に“選ばれた人間”になること。
すべてが、コンテンツとして噛み合っていた。
探索は危険だ。
だが、見るだけなら安全だ。
そうして、ダンジョンは少しずつ形を変えていく。
国家が管理する危険区域でありながら、
同時に――人々の視線と金を集める舞台へと。




