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日本の対応

ダンジョンという存在が、もはや一国だけでどうにかできる問題ではないことは、世界中が理解していた。


 発生から一年。

 各国は軍による完全封鎖という、最も原始的で確実に思えた方法を選択した。しかし、その結末は芳しくなかった。

 封鎖は被害を抑えたが、同時に問題を内部に溜め込んだ。

 魔物は減らず、増え続け、やがて圧力となって噴き出す。


 スタンピード。

 軍事力をもってしても完全には抑えきれない事例が、いくつも報告され始めていた。


 日本も例外ではなかった。


 東京都心からやや離れた地点に出現したダンジョンは、早期に自衛隊の管轄下に置かれ、厳重に管理されていた。

 周囲は立入禁止区域に指定され、メディアの立ち入りも制限された。


 だが、時間が経つにつれ、現場から上がってくる報告は変化していく。


 ――封鎖しているだけでは、何も解決しない。


 魔物の出現頻度は一定で、内部構造にも変化が見られない。

 倒した魔物からは、例の「石」が残る。

 色も大きさも不揃いで、明確な用途は分からない。

 だが、微弱ながらも未知のエネルギー反応を示すことだけは、各国共通の認識となっていた。


 日本政府内でも、議論は紛糾していた。


 軍が引き続き管理すべきか。

 それとも、別の方法を模索すべきか。


 会議室は静かだったが、重苦しい空気が漂っていた。


 ダンジョン対策特別委員会。

 名目上は調査と管理を目的とした組織だが、実態は責任の所在を巡る話し合いの場でもあった。


「自衛隊の負担が限界に近づいています」


 淡々とした報告が読み上げられる。


「封鎖と討伐を繰り返すだけでは、人的コストが膨らむ一方です。現状維持は、事実上の後退と言っていい」


 反論はすぐに出た。


「だが、民間に任せるのは危険すぎる。事故が起きれば、責任は誰が取る?」


「封鎖を続けて事故が起きている現状は、どう説明する?」


 議論は平行線を辿る。


 そんな中、ある報告が場の空気を変えた。


 海外の事例。

 特に、インドやフィリピンといった国々の動向だった。


 軍事的に完全な封鎖が難しい地域では、現場判断で民間の協力を仰ぎ始めていた。

 結果、ダンジョン周辺に人が常駐し、魔物の出現が分散され、被害が減少したという。


「管理ではなく、運用……ですか」


 誰かが呟く。


 日本は、得意な分野がある。

 ルール作り、資格制度、責任の分散。


 危険なものを、危険なまま放置しない。

 扱える形にまで落とし込む。


「完全な自由化ではありません」


 官僚の一人が続ける。


「国が枠組みを作り、資格を与え、管理する。その上で、実働を民間に委ねる」


 それは、折衷案だった。


 軍が前線に立つのではなく、後方で支える。

 危険は残るが、動かさなければ状況は悪化する。


 結論は、急がれた。


 世界が、同時に動き始めている以上、日本だけが立ち止まる余裕はなかった。


 数週間後。

 政府は公式に発表する。


 ――ダンジョン管理の一部を、民間へ段階的に委託する。


 それは、人類がダンジョンと「共存する」ための、最初の一歩だった。

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