2. 少女の約束-1
向かいに座る少女は窓の外を一瞥した後、静かに話し始めた。
声は柔らかく風に溶けるように軽やかだった。
「ねえ、お兄ちゃん。わたしとれんのお話、聞きたい?」
思わず頷くと少女は小さな手を膝の上で組みなおしてまっすぐ俺を見た。
その瞳の奥にはどこか遠くを見つめるような影があった。
「れんと、つむぎ――」
少女は少し言葉を噛みしめるように続ける。
「二人はね、同じ日、同じ病院で生まれたの。時間はちょっとだけ違うけど、同じ場所なの。」
電車は変わらず静かに揺れている。
窓の外の水平線は変わらず青く曖昧に光を反射していた。
その中で少女の声だけが、微かな波紋のように車内を漂う。
「れんは男の子で、つむぎは女の子。お母さんたちが同じ病室に入院していたのがきっかけで、家族ぐるみで仲良くなったの。」
少女は指を組んだまま視線を窓に戻す。
「幼稚園も一緒だった。毎日手をつないで通ったのよ。
近所の人たちはよく言ってた。『れんとつむぎは、運命のふたりね』って。」
話のリズムは、まるで呼吸のように穏やかで、俺は言葉を挟む余地すらなく、ただ耳を傾けていた。
どこか懐かしい、胸の奥に沈んでいた記憶に触れるような気がした。
「れんとつむぎはね、いつも一緒にいたけれどでも二人だけの世界じゃなくて、
家族も、友達も、町も、ぜんぶ巻き込んで、毎日が少しずつ重なっていったの。」
少女の声は柔らかく、しかし確かな輪郭を持って空気に溶けていく。
「お母さんたちはね、二人のことをとても大事に思ってた。
笑ったり、泣いたり、時には叱ったりもして――
でもいつも、れんとつむぎが同じ時間を生きていることを喜んでいたの。」
俺は窓の外の光に目を落とす。
水平線に揺れる光の帯は、まるで少女の言葉を反射しているようで、胸が少し暖かくなった。
「小さなころ、つむぎはれんの手を握るのが好きだったの。れんも、つむぎの手を握ると安心するの。二人にとって、手をつなぐことはただの習慣じゃなくて――心の支えだったのよ。」
少女の声には、微かな笑みが混じる。
「誰もが思ってた。二人は運命のふたりだって。
でもそれは、ただの言葉じゃなくて、毎日の積み重ねでできた、本当の運命のことだったの。」
俺は自然に息をついた。
話を聞きながら、心が少しずつほぐれていく。
言葉だけで世界が形作られる感覚。
目に見えないけれど、確かに存在するものに触れているような気がした。
「それから、れんとつむぎはたくさんの場所に行ったの。」
少女は手をひらひらと動かし、目の前の空気に小さな軌跡を描く。
「でも、どこに行っても、結局は同じ場所に戻ってきたの。お互いのそばに。」
電車が揺れるたびに、少女の髪が小さく揺れた。
彼女の話と、電車の揺れと、窓の外の水平線が、静かに重なり合う。
どこまでも続く青と、淡い光と、微かな風の匂い。
それは、まるで物語の中に自分が浮かんでいるみたいだった。
「れんとつむぎはね、特別じゃないの。普通の子どもたち。
でも、だからこそ、一緒にいることが特別だったの。」
少女は小さく微笑む。
「運命ってね、ただ待っているものじゃなくて、自分たちで手をつなぎながら、作っていくものなのよ。」
俺は静かに頷いた。
話の中に引き込まれ、心の奥に暖かいものが流れ込む。
言葉だけで描かれる日常の光景。
それは現実でも夢でもない、だけど確かにここにある世界だった。
電車はまた揺れ、水平線はゆらりと光を反射する。
少女は何も言わず、窓の外を見ていた。
その横顔は、昨日見た夢の中のまま、静かで、柔らかく、どこか切ない。
そして俺は思う――この電車に乗っている時間、
ここで聞くこの物語の一瞬一瞬が、確かに、特別なのだと。
【一部設定公開】
主人公 : ???
ワンピースの女の子 : ???
少年 : 柚葉蓮
少女 : 小糸紬




