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ゆめでんしゃ  作者: 時の凛


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17. 少年の記憶-白石視点

私は白石ほのか。

クラス委員長で、図書委員。成績は学年でいつも上位。

先生や親からは「しっかり者」と言われるけれど、私はそんなに立派じゃない。

ただ――いつも、正しいことをしようと思って生きてきただけだ。


だけど、人って正しいだけじゃ生きていけないんだね。

そう気づいたのは、柚葉 蓮くんと出会ってからだった。




蓮くんはクラスメイトで、同じ図書委員。

図書室でよく静かに本を読んでいる子。

特別目立つタイプじゃないけれど、何かに一生懸命な人って、自然と目で追ってしまう。


ある日、彼が私に声をかけてきた。

「勉強、教えてもらえないかな。」

真面目な瞳だった。

私は少し嬉しかった。頼られるって、こんなにも胸が温かくなるんだって。


放課後、二人で図書室の隅に座って一から教えた。

彼は嫌な顔ひとつせず、真剣にノートを取っていた。

そんな姿を見ているうちに、私はつい夢中になってしまった。

いつしか教える時間が一日の楽しみになっていた。


そして迎えたテストの日。

蓮くんは見事に高得点を取った。

学年でも上位。

私は自分のことみたいに嬉しくて、つい冗談を言った。


「じゃあ、なにかご褒美、ほしいな。」


本当は、目を瞑らせておでこにデコピンをするつもりだった。

“冗談”のつもりだった。

でも、彼の笑顔を見た瞬間、胸がドクンと音を立てた。


彼が私を見上げた瞬間、世界が止まったように感じた。

気づいたら、唇が触れていた。


驚いたように見開く彼の瞳。

その光景を、私は今でも忘れられない。

何をしているのか、自分でもわからなかった。

ただ――止められなかった。


距離を取るという彼の優しい拒絶。

そこで我に返った。

「ごめん。」

それ以外言えなかった。

言葉が見つからなかった。

何故そんなことをしたのかわからなかった。




翌朝、彼の様子はどこか落ち着かないものだった。

蓮くんは周りの人にいろいろ声かけたかと思うと教室を飛び出した。

思わず、とっさに腕をつかんだ。


「どうしたの?」

「紬を探してる。」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。

幼なじみの女の子――紬ちゃん。

私も知っている。いつも明るくて、誰にでも優しい子。

二人の間に、特別なものがあることはうすうす気づいていた。

それでも、私は愚かにも、聞いてしまった。


「……やっぱり、紬ちゃんのこと、好き?」


自分の声が震えていた。

何を言ってるんだろう。そんなこと、聞いてどうするの。

でも、彼はまっすぐ私を見て、迷いのない瞳で答えた。


「紬は……紬は僕の大切な彼女だ。」


あぁ……そうなんだ。

その瞬間、心臓が音を立てて崩れた気がした。

視界が滲む。


「ごめんね……蓮くん。」


搾り出すようにそう言って、微笑んだつもりだった。

彼のためにできる、“正しいこと”を選んだつもりだ。


「それなら……紬ちゃんのところに行ってあげて。ふらふらしてたらしいから、保健室かも。」


彼は驚いたように私を見つめ、そして「ありがとう」とだけ言って走り去った。

その背中が、廊下に差し込む朝日の光に溶けていく。

私は一人、誰もいない廊下に残された。

胸の奥にこびりつくような後悔。

でも心の中で一つの思いが浮かんだ。


――二人には上手くいってほしい。


その思ったとき私の足は保健室へと向かっていた。




保健室の前に立つと、中から二人の声が聞こえてきた。

優しい声で話し合っている二人。

あぁ、よかった……。


安心と同時に、罪悪感がまた胸を締めつけた。

でも、逃げちゃいけない。

私は、ちゃんと謝らなきゃいけない。


ドアが開いて、蓮くんが出てくる。

彼と目が合った。


「ちょっと、紬ちゃんと話してくるね。」


彼にそう伝え、私は息を整えて保健室に入る。


白いカーテンの奥で、紬ちゃんがこちらを見ていた。

彼女の顔色は少し青白いけれど、瞳はまっすぐだった。


「……白石さん。」


呼ばれて、心臓が跳ねる。

でも逃げないと決めていた。


「昨日のこと……謝りたい。」


私は息を吸い込み、ありのままを話した。

どうしてあんなことをしたのか、自分でもわからなかったこと。

ただ、抑えきれない気持ちがあって、結果的に彼を困らせてしまったこと。

そして、どれほど後悔しているか。


紬ちゃんは黙って聞いていた。

責めるでもなく、遮るでもなく、ただ、静かに受け止めてくれていた。


しばらくの沈黙のあと、彼女がぽつりと口を開いた。


「蓮のこと、好き?」


その問いに、言葉が詰まった。

心の奥に隠してきた想いが、溢れそうになる。

でも、嘘はつけなかった。

自覚してしまった。


「……うん。好き。どうしようもなく。」


涙が頬を伝った。

こんなに涙が熱いものだなんて、知らなかった。


紬ちゃんは、そっと私の頭に手を置いた。

その手は、あたたかかった。


「ありがとう。……正直に言ってくれて。」


その一言で、胸の奥がほどけていくのを感じた。

赦されたわけじゃない。

でも、彼女は私を責めなかった。


それから、私たちは少し話をした。

蓮くんの真面目なところ、優しいところ、ちょっと不器用なところ。

お互いに彼の話をして、自然と笑っていた。


きっと、奇妙な関係だと思う。

でも、不思議とあたたかかった。

涙の後の笑顔って、こんなに優しいものなんだね。


「ほのかちゃん、お友達になろう?」

「うん。紬ちゃんと仲良くなりたい」


そう言って、二人で小さく笑い合った。

私に初めて友達ができた。

ご愛読ありがとうございます。


結構惰性だと思いますが白石さん視点です。

あのままだと白石さん最低な人で終わるじゃんってちょっと思ったので挽回できればいいです。


中学生特有の思春期、恋心の芽生えを意識させていただきました。

皆さんの心に届けばうれしいです。


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