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ゆめでんしゃ  作者: 時の凛


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15/24

15. 少年の記憶-√B

※√BはIFルートです。

IFルートは一部に、精神的なご負担を感じる可能性のある描写が含まれております。

内容にご不安のある方は、この話は無理せず読み飛ばしていただくようお願い申し上げます。

「紬は僕の大切な幼馴染だ。」

白石さんは、しばらく黙って僕の顔を見つめ、それからふっと笑った。


「そっか。なら、私も一緒に探すよ」


あまりに自然な声だった。

僕は戸惑いながらも頷き、二人で校舎を出た。


朝の光が廊下を斜めに照らしていた。

ガラス窓に映る二人分の影が、重なったり離れたりしながら伸びていく。

白石さんは何も言わなかった。僕も何を言えばいいのか分からなかった。


部活の更衣室を見た。人気のない体育館の隅も覗いた。

図書室――昨日の夕暮れの記憶が、胸の奥を鈍く刺した。

しかしそこにも紬はいなかった。

最後に辿り着いたのは、保健室だった。


扉を開けると、白い光が目に差し込んだ。

カーテンが風に揺れ、薄い布越しにベッドの影が見えた。

そこに、紬がいた。


ベッドに腰かけ、外の空をぼんやりと眺めていた。

淡い光に包まれた横顔は、どこか現実感がなかった。

僕が来たことに気づくと、紬は一瞬だけ笑った。

けれどすぐに、その表情は曇った。


「えっと……蓮と……白石さん……?」


声が震えていた。

僕は急いで言葉を探す。

「紬、大丈夫?」

「うん……大丈夫、ありがとう」


紬はそう言って笑った。

けれどその笑顔は、まるで紙で作られたように薄かった。

目の奥に、何かが沈んでいる。


その沈黙を破ったのは、白石さんだった。


「紬ちゃん、具合悪いの?」

「ちょっとね。ところで、なんで白石さんがいるの?」


その問いは、かすかに刺のある声音だった。

白石さんは少しだけ首を傾げ、そして微笑んだ。


「それはね……蓮くんと付き合っているからよ」


言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。

何かの冗談だと思った。

だが白石さんの瞳は、笑っていなかった。


「え……何を言っているの……?」

紬の声が震えた。

僕は思わず口を開いた。


「白石さん、僕と君は――」


言い終える前に、白石さんの指が僕の唇をそっと塞いだ。

「だって、蓮くん。フリーなんでしょ?もうクラスで付き合ってるって噂されてるし」


世界が遠ざかっていくようだった。

誰かの悪い冗談の中に迷い込んだみたいだった。


紬は唇を震わせ、乾いた笑いを浮かべた。

「へぇ……そうなんだ。お似合いじゃん。幸せになれよってね」


その声は、笑っているのに泣いているようだった。


「何言ってんだよ、紬。僕は――」


「二人とも、心配してくれてありがとう。少し横になるから……授業、戻りなよ」


そう僕の言葉を遮って紬は布団をかぶり、背を向けた。

その背中は小さく、遠かった。


僕はどうすることもできず、保健室を出た。

廊下を歩くたび、足音がやけに重く響いた。

白石さんは何も言わなかった。ただ、隣で静かに歩いていた。

いや、言っていたのかもしれない。

しかし、僕には一切届かなかった。


教室に戻ると、ざわめきが僕を包んだ。

「白石さんと付き合ってるんだって?」

「朝のHR前だって一緒に抜け出して……熱々じゃん?」


誰かが笑った。

笑い声が、遠くで割れるガラスの音のように耳に刺さった。

否定しようとしても、口が動かなかった。

あの保健室での出来事が、まるで夢の続きを現実が引き継いでいるようで、息が詰まった。


――僕の好きな人は、紬のはずなのに。

どうしてこんなことになっているんだろう。


その日の授業は、ほとんど何も頭に入らなかった。

ノートの線の上にペンを滑らせながら、ただ、さっきの紬の顔が焼きついて離れなかった。


昼頃、廊下がざわつき始めた。

何人かの先生が走っていく。

「救急車呼んで!」

誰かの叫び声が響いた。


教室の空気が、瞬く間に凍りついた。

ざわめきが波のように広がる。

窓の外、校舎の裏手に人だかりが見えた。


僕は立ち上がった。

心臓の鼓動が速くなる。

何かを直感した。

けれど、その「何か」を認めたくなかった。


廊下に出た瞬間、女子の悲鳴が聞こえた。

先生の制止も耳に入らないまま、足が勝手に動いた。

視界の端に、赤いものが揺れた。

その中心に、誰かが横たわっていた。


――紬だった。


時間が止まった。

風の音も、人の声も、すべてが遠ざかっていく。

足が震えた。膝が崩れた。


白い布が、彼女の身体を覆った。

その布の端から、見覚えのある髪の先が覗いていた。


誰かが泣いていた。

誰かが名前を呼んでいた。

けれど、その声は自分のものなのか他人のものなのか、もう分からなかった。


胸の奥に穴が空いたようだった。

そこから何か大切なものが、静かに流れ出していく感覚だけがあった。


「……なんで」


崩れ落ちる僕の体を白石さんが後ろから支えた。

言葉は風に溶け、消えた。


空はどこまでも青く澄んでいた。

まるで何事もなかったかのように、雲が流れていた。


僕の世界だけが、止まっていた。

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