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ゆめでんしゃ  作者: 時の凛


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13. 少年の記憶-紬視点

中間テスト返却日の放課後


部室でみんながテストの結果に一喜一憂している中で、私はずっと落ち着かなかった。

部活の号令の声が遠くに響く。

返却された私の答案の点数なんて、もうどうでもよかった。


――蓮、きっと嬉しそうにしてるんだろうな。

蓮が努力して自分の力で高得点を取った。

そう思うだけで、自分のことのように嬉しく思い少し笑顔になれた。


だが、その笑顔は長くは続かなかった。


更衣室に忘れ物を取りに行く途中、ふと足が止まった。

廊下の先、図書室の扉の隙間から灯りが漏れている。

なんとなく胸の奥がざわついた。

蓮が図書委員で、今日が当番であることを思い出したのだ。


少しだけ。

ほんの少しだけ、顔をのぞかせるつもりだった。

彼が真面目に仕事をしている姿を見て、静かに戻るつもりだった。

――そのはずだった。


ドアの隙間から、二人の姿が見えた。

蓮と、同じく図書委員の白石さんだ。

白石さんが、蓮の目の前に座っていた。

机の上にノート。夕陽が二人を染め、まるで絵のように美しかった。


最初は何をしているのか、すぐにはわからなかった。

白石さんが何か言うと蓮は目を瞑った。


次の瞬間、白石さんが蓮にゆっくりと顔を近づけた。

そして、唇が触れた。


音もなく、時間が切り取られたようだった。

心臓が一拍、抜け落ちた気がした。


動けなかった。

まるで自分の身体だけがガラスの中に閉じ込められたみたいに、何もできなかった。

蓮は驚いた顔をしていた。

白石さんは、彼の手を取り、自分の胸に押し当てた。

その瞬間、喉の奥が焼けるように熱くなった。


息をするたび、胸の中が痛んだ。

何かが軋む音がした。

――これは夢だ。そうに違いない。

そう思い込もうとした。

見なかったことにしようとした。

でなければ、立っていられなかった。


私はその場を離れた。

震える足で廊下を走って。

更衣室に戻る途中、廊下の影がやけに長く見えた。

耳の奥で、自分の鼓動が鳴っていた。


部活に戻っても、身体はうまく動かなかった。

ボールを追っても、視界の端にあの光景がちらついた。

何度もミスをして、みんなが心配そうにこちらを見る。

笑顔を作ろうとしても、口角がうまく動かなかった。


蓮に会いたくなかった。

顔を見たら、何を言ってしまうのかわからなかった。

だから「ごめん、部活長引きそうだから、今日は先に帰ってて」とメッセージを送った。

彼がどんな顔をして読むのか、想像することすら怖かった。




夜、ベッドの上で何度も目を閉じた。

けれど閉じても、あの光景が焼きついて離れない。

唇が触れた瞬間の白石さんの瞳。

蓮の困惑した表情。

全部がまるで幻灯のように、まぶたの裏で繰り返された。


「見間違いだよね……」

呟いても、誰も答えてくれない。

冷たい夜風が窓を叩くだけだった。


翌日、教室に入ると、空気が妙にざわついていた。

誰かが小声で笑いながら囁くのが聞こえる。

「ねえ、白石さんと蓮って、付き合ってるらしいよ」


その言葉が耳に届いた瞬間、全身が硬直した。

机の脚がきしむ音が、やけに大きく響いた。

喉の奥に何かがこみ上げてきて、息が苦しくなった。

笑い声が遠くで反響する。

私は席を立ち、ふらふらと廊下を歩いた。


どこへ行くのかもわからなかった。

ただ、あの教室にいられなかった。


気づいたら、保健室の前に立っていた。

ドアを開けると、白いシーツと消毒液の匂いがした。

カーテンの向こうにベッドが並び、午後の光が静かに差し込んでいる。


先生に「少し休ませてください」とだけ言って、ベッドに横になった。

目を閉じると、涙がこぼれた。


泣いてはいけないと思っても、止められなかった。

胸の奥がひりつくように痛くて、声が出そうになるのを必死で押さえた。


――ねえ、蓮。

苦しいの。胸の奥が、焼けるみたいに。


白い天井が滲んでいく。

頬を伝う涙が枕に落ち、視界がぼやけた。

息をするたび、胸の奥で軋む音がする。

ズキズキと痛む鼓動と、自分の嗚咽だけが耳に響いていた。

その音に包まれながら私はゆっくりと眠りへ沈んでいった。


「目が覚めたら蓮が私の横にいてくれたらいいのに……」

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