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偽神〜every night Memories〜  作者: 徘徊猫
第一章 血の杯を掲げよ、狂乱に酔いしれて悲哀を聞け

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薄氷の王と闇夜の剣

 大会の一件が一段落すると、予想通り二人に向けて招待状が届いた。ミュリアは招待状を見ながら、大会の勝者として演説や対応に追われて帰ってきたシグルドを出迎えた。

 「優勝おめでとう♪ 疲れたのなら少し休んでてね。今度は私もいるから、肩の力を抜いていいのよ。私はドレスの用意があるから暫くここを離れるけど、時間になったら王城の前で再会しましょう」

 シグルドが返事をする間もなく、ミュリアは部屋から出た。人がいなくなり、シグルドに疲れが押し寄せた。あの戦いの比ではないかもしれない、とこの国の力に対する熱狂の激しさを心に書き留めた。


 すると、いつの間にかナディアが部屋の中に現れていた。扉の音は疲れからか聞こえなかったのかもしれない。

 「おつかれ、おつかれ~。取り敢えず第一関門突破ってところかな。あれ、ミュリアはいないんだ」

 「衣装の用意だそうだ。僕はこのままの姿でいいけど、連れていく人間まで簡単な装いのままだと怪しいからって」

 「ふうん、あんたから距離をとったわけじゃないんだね」

 シグルドは不思議そうにナディアを見た。

 「あんた、やっぱり周りからどう見られてるのかってことに全くの無頓着なんだね。この国の子どもならともかく、下手したら血に慣れてないような子があんな戦い方をするやつを見たら距離をとっても不思議じゃないよ」

 シグルドは自身の戦いを振り返ってみる。剣を捨てて、殴打で乗り越えたあの試合を。確かに、下手に剣を振り下ろすよりも生々しい光景かもしれない。

 「……僕はそんなに獰猛に見えたのかい?」

 「あれは獰猛っていうより……って、別にそんな話をしに来たわけじゃないの。あんた、報酬はもう貰ったの?」

 「いや、報酬は王城で渡すそうだ。そういうものじゃないのか?」

 「まずったな……これじゃ、とんずらしようにもあんたらが無事に帰ってこないと厳しいじゃん。あの幼竜の件も全然進展がないし、美味しい話だと思ってんだけど」

 ナディアに冷ややかな目が向けられるが、そんなことを気にせず肩を落とす。

 「契約だからね、依頼はもちろんこなすよ。でも、しょーじきさ、こんないつ紛争が起きてもおかしくない場所に留まっていたくないんだよね。あたしのような商人にとって、別に国は大事なものじゃない。利益をもたらしてくれる顧客以外は素知らぬ他人と何も変わんないんだから」

 ナディアは金貨を取り出してその感触を確かめる。

 「あんたみたいな大役を任された英雄とかと違って、あたしらみたいなやつは一日でも長く生きていられればいいんだ。世界を変えるとか、人を救うだとか大層なことを考える必要はない。何者でなくても、生きていられればそれでいい。だって、生きるってそれだけで素晴らしいことでしょ……それにあたしの人生には何もなくても、何者でなくてもさ、金貨の音だけは確かに響いているんだから。それに、たまにあんたみたいなやつからも手を貸してくれと頼まれるんだから、捨てたもんじゃない。安心しなよ、あたしは今まで途中で依頼を投げたことはないから。適当にメイドにでも変装して、あんたらを陰ながら援護してやるよ」

 そう言うと、彼女は暗闇に消えていった。


 ドレスに着替えたミュリアと一緒にシグルドは王城へと辿り着いた。遠くからも見える荘厳な城は圧倒的だ。

 「もう着いちゃったわね。あなたはどう? 私は少し緊張しているけど、きっと私たちなら乗り越えられるって信じてる」

 少女らしく華やかな衣装に身を包んだミュリアは隣にいるシグルドの顔を見上げた。

 「僕は……うん、覚悟は決めた。どうせ逃げられないのなら、堂々と相手の手の内を晒せばいい。それでも噛み付いてくるのであれば、僕も容赦はしないよ」

 「そうね、そうならないことを祈るわ」


 玉座まで続く道には兵士たちが並んでいた。しかし、彼らは決して前方から目を逸らさない。それほどまでに統率された兵士たちを通り過ぎて、黒い服の男が目の前に現れる。

 「来たか。俺の名は既に口にしたな、黒将軍クレイトスだ。王より迎えを仰せつかって待っていた。この扉の先に玉座がある。くれぐれも不審な真似はするな。俺がいなくとも、百を超える兵士たちの目の前で事を起こせば生きて帰られないぞ」

 二人が頷くと、クレイトスは目の前の扉を開くよう命じた。パーティーや人をもてなすような空間ではない。まるで兵士たちが守る要塞のような印象をシグルドは受けた。

 玉座の前まで来ると、玉座に座る男を中心におそらく重臣が取り囲み、離れた左右には別に男女を派閥の指導者として掲げているようだった。噂の王子と王女だろう。王子はちらりとシグルドを見たが、王女の方は興味はないとばかりに視線すら向けなかった。

 憮然な態度で王はシグルドを見定めた。

 「お前が此度の勝者であり、英雄の刻印を持つ戦士シグルドだな? お前は舞台で圧倒的な力を見せた。故に褒美をやろう。こちらまで来い」

 シグルドは少しも動揺することなく前に出た。周囲から値踏みする視線が向けられているが堂々とした態度で受け流した。

 「ふむ、我はお前を臣下に加えても良いと考えている。お前の答えを聞かせろ」

 「ありがとうございます、国王様。ですが、僕は英雄とは何かを探すために旅を始めました。それは故郷を失ってから今日まで続いています。僕にとって、この旅は歩み続ける道筋。心に燃える炎は常にその答えに焦がれている。なので、まだ足を止めるわけにはいきません。僕には探す理由がある。確かに、それは永遠と続く終わりのない旅かもしれない。ですが、僕は多くの人を助けたい。そしてなぜ僕が選ばれたのか、僕の何が必要とされているのか、その答えは本当に戦わなければいけない時がずっと先にあるからだと感じています。この国に来たのも英雄の力が何たるかを知るためです。そして、これからも旅を続けることで証明していきたいと考えています」

 「……断るか」

 国王は部下に手で合図した。そしてシグルドに向き直ったときには、いつの間にか王女がシグルドより前に歩き出していた。

 「義父上、一つ聞きたいことがあるのだが」

 そこには王に対する遠慮もなく、ただ決心だけが瞳に宿っている。国王が口を開く前に、王女は続けて口を開く。

 「此度の歓待は随分と物騒な雰囲気だ。まるで、邪魔なものは全て一掃するかというようにな。故に聞こう。義父上、なぜここには“ヤドリギ”を用意したのかと」

 「フィオルナ──王権を狙う忌々しい下賤な者よ、お前には最上級の機会を与えたというのに我の期待と国への忠義を裏切り、転覆を目論んだ……なら、引導を渡すほかあるまいよ。さあ、クレイトス。国の裏切り者を処刑せよ」

 クレイトスは王とフィオルナの前に立ち、王に向けて剣を抜いた。

 「国を蝕む害虫はどちらだ──俺は言ったぞ、この剣は国に忠誠を誓うと。だが、現状はどうだ。貴様らは私欲のために彼女を亡き者にし、あまつさえそこの英雄に対してルールを利用して暗殺者をけしかけた。今ここで、俺はフィオルナ王女の傘下に入り貴様らの陰謀もろとも葬ってやる」

 「既に手を組んでたな? だが、処分するなら多くても変わらん──やれ」

 国王が指を鳴らすと突然大きな穴が開き、四人もろとも落とし穴へと落ちていった。


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