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偽神〜every night Memories〜  作者: 徘徊猫
気が向いた時のおまけ

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運命の裁定:増悪による反逆

 ここに、本来の運命が辿る歴史を語ろう。


 これはある国の、黄金と血が支配する国の話だった。そこではある女王が戴冠し、栄光を浴びることとなる。数多の犠牲と引き換えに。


 それはまだ女王が王女であった時のこと。

 王女は聡明で冷徹、物事を合理の手中に収め、その目は何年も先を見通した。彼女にとって、例え家族であっても手をかけることに厭いはなかった。

 なぜなら、彼女は本当の王女でなかったからだ。


 彼女が幼い頃、ある孤児院で輝きを失いくすんだ髪を持つ少女とであった。彼女は多くのことを知っていた。

 当時、王家は立て続く内乱に見舞われていた。

 そのために、民は貧困に喘ぎ、正義などない混沌の世の中を嘆いていた。それでも、人々は王に従う。

 王より他に、頼る存在がいないからだ。

 そして、数多くの内乱の中で市井へと逃げ込んだ人々もいたのだ。


 けれど、かつて王族であった者も責任を放棄し、その座を開けるのであれば只人と何も変わらない。

 騙され、奪われ、財産というものは何も残らず、逃げ延びた先は寂れた孤児院。そんな物語を彼女に語る少女に光は宿っていない。絶望、虚無、頬を伝う涙でさえ壺が壊れて溢れたようだ。

 それでも、その物語を教えたのは野心を持つ彼女へ警告を告げるため。その野心は、“人々を導く”という燃え滾る炎のような情熱を消すため。


「嘆くことはない、歌い手よ。君の悲劇は聞かせてもらった。だが、その程度で躊躇うつもりはない。この道が、如何に血に塗れていようと進むつもりだ。茨の道を血を流すことで進めるというなら、それは必要な対価だった。それだけだ」

 彼女は少女から名前を貰った。

 生涯彼女が背負う名前、フィオルナという名前を。


 時は経ち、偽神は一つの刻印を彼女に与えた。

 その意味を明かさぬままに、その背中を押した。


 その結果は──凄惨たるものだった。

 国の半分が焼け落ち、残りの半分も戦乱に陥った。

 止まるつもりはない、逃げるつもりもない。

 この国を変えるには、まさに血を入れ替えるような苦行が必要なのだと、王女は突き進んだ。

 全てを敵にしても、血で歴史を刻むことになろうとも。


「姉、様……」

 その手で、自らを慕っていた妹を貫くことになろうとも。

「……喋るな、これでお前も楽になるだろう」

 レテラの身体は黄金によって染められていた。

 国王を弑し、旧政府が担ぎ上げたのはレテラだった。この結末に至る可能性を常に考えていた。なら、それが訪れたところで決められた“過去”と何ら変わらないのではないか。

 

 今更、こんなことを恐れはしない。

 レテラが彼女に向けて精一杯手を伸ばそうとするが、槍によって胸を貫かれて届かない。その涙が、ぽつぽつとフィオルナの頬へと落ちてくる。

「どうして、こう…なったんだろう…」

 理想に至るには、手段を選ぶつもりはなかった。

 そのための戦略も、道筋も整えてきた。

 後はその道をなぞるだけ、自らの打ち立てた茨の道を踏破するだけだ。


「私、すぐ…姉様の所に逃げようとしたの。父が死んだ日に…」

 フィオルナは機会を見計らってすぐにでも戴冠し、国王の座に座って内乱を鎮めようとしていた。しかし、動き出した頃にレテラは行方をくらましていた。

「あの…冷たくて…暗い黄金。いやだって、言ったの。でも、…誰も聞いてはくれなかった」

「そうか…」

 もう目は見えていないのだろう。ただこちらにレテラは手を伸ばす。

「あの中で、がんがんって…独り言みたいにっ、アタマがおかしくなりそうだった…」


 国を取るためには、妹を義理の妹を手にかけなければならなかった。それが、彼女の苦痛を終わらせるためであるにしても、もう引き返せないにしても…

 その傷を一生背負わなければならない。


「…よく、頑張った」

「うん、姉様…うんっ」

 触れることはできなかった。

 一度触れてしまえば、肉体は黄金に染められてしまうから。

 まだ頬を伝う涙だけが、二人を繋いでいた。

「もう、眠るといい。私が、最後まで側にいよう」

 フィオルナは初めて子守唄を歌った。

 それははるか昔に、一度だけ聞いた覚えのある歌。


 レテラの肉体が黄金に溶け、消え去るまで。



 *



 それからの女王は人が変わったように、いや今まで以上に国政へと埋没していった。どうして世界には理不尽が多いのか、世界はどうしてこんなにも不完全なのか、女王はひたすら心を殺した。刃を鋭く研ぎ続ける為に。


 全ては、あらゆるを定めた偽神である僕に復讐するため。


 彼女の台頭で国は大幅に発展したが、その刃が最後まで僕に届くことはない。そして、その鋭い刃も徐々に時間と利己的な欲望によってメッキが剥がれてゆく。そして、最後には過去に消える。


 皮肉にも、その王国を終わらせたのはとある人間が感情のままに振り下ろした慟哭だった。


「はぁ、やっぱり……あの真なる神にも、こんな方法だと届かないね」

 果てしない時間の中で繰り返してきた残響と同じように、その小さな物語は無へと消えてゆく。


「ただ繰り返すだけじゃ、意味はないんだ。進ませないと、世界のアップデートは成し遂げられない。進まなければ、僕たちは無に消えてしまうから」

 でも、生きるという力は簡単に削げてゆく。

 それこそ、「どうでもいい」「つまらない」というように。

 期待すらも馬鹿らしく思えてくる。


「こんなの、詰みってやつだ」

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