永遠の夜はやがて、夜明けを迎える
変化はほんの一瞬で、何が起きたのかすらも多くの人たちには理解できなかった。
アーシャすらも、それが何に影響を及ぼしたのかを察したのはシグルドの一撃で吹き飛んだ後だった。
結界の端まで吹き飛び、そのことに混乱するよりも早くシグルドがアーシャに炎の奔流を放つ。
(見えなくなった?)
刻印による未来の視界が徐々に不確定でぼやけたものとなっていく。
だが、それはシグルドが強くなったということではないはずだ。
追撃を凌ぎ、アーシャはミュリアへと視線を向ける。
(彼を強化しようにも身体が保たないだろう。なら、変わったのは周囲ではなく……)
シグルドに羽を放ち、少しの間動きを封じた。
そしてアーシャは標的をミュリアに変える。
「私でも、抵抗くらいならできるわよ?」
いくつもの光線がアーシャの行く手を阻むが、それは少し速度を遅くさせる程度だった。だが、ミュリアにとってはそれで十分だった。
落ち着いたシグルドが立ちはだかり、アーシャの進む直線状を炎が覆った。
「なるほど……君は彼ではなく、僕の神性を歪めたんだね」
ミュリアの背後から無数の羽が飛来する。
それを結晶で弾くと、頭上に飛んだアーシャが二人を見下ろした。
ミュリアによって阻害された偽神の力を活用したところで意味はないと、接近戦を辞めた。
「けど、未来視がなくなったところで、力勝負に勝てると思う?」
無数の羽が天を覆い、一斉に二人へと向けられる。それは今までの比ではない質量と数で押しつぶそうとする。
それが神と人の格の違い。
絶対的なルールであり、覆すものは神しかいない。
シグルドは剣を構え、最大の一撃を放つ決心をした。
「ミュリア、炎は君を巻き込むかもしれない。それでもいいか?」
「確認を取るまでもないでしょう? それに、巻き込んだのは私かもしれないわ」
本当はもっと話したいことがあったが、それは墜ちてくる羽によって遮られる。
「だとしても、僕は君の側に立てたことを誇りに思う」
灼熱を纏う剣を二人支え、全てを注ぎ込む。
二人の共鳴が天へと放たれる。
拮抗しながらも、その力量の差は同然。
炎は身を傷つけ、徐々に押され始める。
(神には勝てない)『いいえ、違うわ』
それを無感情な目で見つめるアーシャは、その絶対の法則で二人を押しつぶそうとした。
(君たちは世界の安定性を乱した)
『けれど、そこから生まれたものがある』
(世界は夢のような戯言に過ぎない)
『それでも、私たちはこの思い出と共に生きる』
(確立しない世界で、何もかも不安定な世界で、生きる以上に価値のあるものはあるのか?)
『それでも感じた心がある、そうでしょう?』
(……くだらないね)
ミュリアの干渉を跳ね除け、じりじりと炎が羽に覆われていく。
(終わりだよ……)
呆気ないものだと思いながら、アーシャは最後に力を込める。最後に何か言う言葉があるかと思ったが、特に何もなかった。
『そう、あの二人だけでは抗えないから、僕が手を貸そう』
砕け散ったはずのデータのアーシャが、権能の一部を引き抜き始めた。
『この、憎き同じ顔をした僕を倒して……僕が成り代わろう。偽の神にでもね』
(データに何ができるの?)
『君には見えてなかったみたいだね。ミュリアはこっそりと僕のデータの一部を君に植え付けたんだ。そうすれば、君は純然に力を使えないし、僕は君の力を奪うことができる』
(その程度なら──)
『おっと、緩めていいのかい? 君の喉元に突きつけられたのは僕だけじゃないんだよ?』
炎が徐々に羽を飲み込み始めた。
『まあ、最悪、君と心中することになるけど、僕はそれでも構わない。あんなつまらない永遠に閉じ込めた君に代価を支払わせられるんだから』
(随分と、友達思いだ)
『そうだね、一人っきりの君とは違うんだ』
アーシャの身体は自らの手で自らの胸を貫いた。
そしてその一瞬で、炎がアーシャを包み込んだ。
12/19エピローグ




