運命をこの手に
天を引き裂く炎が視界に焼き付く。
激しく、白く、無尽の火に呑まれていく。
「またそれなの?」
アーシャは既に捉えた“視界”で、シグルドの猛攻から逃れた。
それは糸が風に流されて捕らえられないように。
どんな攻撃であっても、直撃しなければ威力が伝わることはない。
アーシャにとって、この戦いに生命を綱渡りするようなスリルはない。それは退屈で、ただ激しく燃える薪が燃え尽きるのを待つような、長い長い時間だけだ。
「君も芸がないよ……もっと新鮮な動きをしてくれないと」
アーシャの声は、シグルドには少しも届いていない。そもそも、轟音が響き渡る戦いでそんな声が届くなんて考えること自体が間違いなのだ。けれど、アーシャは子供のように不満を感じ始めていた。
(あーあ、僕の期待は過大だったのかな? まあ、こっちには時間があるけど……駒が1つ減ったところで、世界は問題なく続くだろう……ただ、死から逃れるためにね)
ふわぁっ、とアーシャは欠伸をした。寝起きのようなものだから、まだ頭が回っていないらしい。
シグルドの動きを確認しながら、ずっと見上げてくる道化の方を気にしていた。
(もう生きる気力もなくなっちゃった? 舞台の一員にもなれない道化……けど、人間であることも捨てられない憐れなやつ。同情しないけどね)
こんな勝算のない戦いに身を捨てるほど、彼も命を無駄にはしてなかったはずだ。
(“未来”なんて、知り過ぎてもつまらない。この英雄でも僕は倒せないし、僕に予測不可能なダメージを与えられるのは“一人”だけ)
アーシャは普段から感じる視線へと見上げた。
真なる神、造物に無関心な創造者……一定の視線が向けられなければこの世界の人間は存在を維持することすら許されない。
アーシャが偽神になったとき、自らに刻印を刻まざるおえなくなった理由でもある。
(本当に厄介な存在……ただ存続することすら許されないなんてね)
それがアーシャに牙を剥くことはない。そのときがあったとしたら、それは全てが無に還るときだけ。
そんなもの、抗いようがない。
だから、神の使者として、“天網”の紡ぎ手としての役割を負うのだ。
「……へぇ、やっぱり君だよね」
アーシャがよそ見する隙に切りかかったシグルドの刃を羽で受け止めて、そちらへと“天網”の力を向けるが、全ては曖昧な夢のように可能性がぼやけていく。
(神から分離した影──この世界の変数)
目を覚ましたミュリアに、アーシャは鋭い視線を向けた。




