愚かな道化のラプソディ
世界は何処までも暗い深淵に浮かぶ一枚の花弁に過ぎないと、そう認識したときから“道化”という存在は表面上の世界に嫌悪を抱いた。
「私たちが夢の存在にすぎないのなら、どうして世界にはこんなリアリティのある痛みが存在するのでしょう?」
それは人が存在するという証明、苦痛だけが世界の価値を示してくれる。
「とはいえ、自ら痛みを背負おうと思えないほど、私を形作るものは何処までも惨めで軽薄なものですがね」
刻印という世界の維持装置は、確かに本当の神に抗うためのフィルターとなってくれた。だが、結局のところ私たちはどこまで自身の意思で決められているのだろうか。
「どちらでもいい、というのが私の答えでした。私が人形であれ、ただ忠実な運命の奴隷であれ……何でも良いのです。水が川の流れに逆らえないとしても、それにどう挑むかは決して見る価値がないとはいえないですから。私は、あなたたちが行う全ての結末を見届けましょう」
道化の前にはシグルドとその仲間たちがいた。
「なぜ協力してくれたんだ?」
シグルドが尋ねると、道化は肩を竦めた。
「私とて、現状が気に入らないというのは確かですから。ずっと主教の命に従ってまいりましたが、あの方の考えには賛同できない。今回の件に関しては特に……いつも私に雑務を押し付けて、調整役をやらされて苦労するのはこちらなのですから。それに、世界の存続という意味では手を結べても、それ以外の部分では全く異なります」
道化は力を抜くように息を吐いた。
「私はね、喜劇のほうが好きなのです。まあ、皆様のいうような喜劇とはいえませんが……この停滞した世界に刺激を届けることこそ、私の使命だと自負してますから」
フフッ、と道化は笑う。
「それに、予定調和が崩れてこそ未来は面白いといえるのです」




