最後の劇が幕を開ける
視点:アーシャ
体が徐々にデータへと還元されて、僕は数字の0と1の間へと消えていく。
けれど、穏やかに消えることは許されなかった。
「──っ」
誰もが息を呑む。
胴体を貫いた鋭利な槍が僕を地面へと縫い付けた。
幸いにも、痛みを感じない身体に感謝すべきだろうか?
「茶番は終わりだよ」
仮面を被った女性が電子空間を引き裂いて現れる。
咄嗟にミュリアがどこからともなく光線の嵐を降り注がせるが、彼女にとってそれは痛痒にもならないらしい。
「せっかく、閉じ込めてあげたのに。すぐにはい上がってくるなんて……まあ、いいか。そろそろ動かしてもいい頃だし」
相手が侮っている隙に、ヴィネが僕に刺さった槍を抜こうとしていた。
けれど、僕はヴィネを突き飛ばした。
ヴィネのいた場所を羽が飲み込む。それに巻き込まれて、僕の下半身は一気にデータへと霧散した。
「貴方は誰? 何の目的で私たちを襲うの?」
ミュリアが問いただしても、彼女は気にした様子はない。ただ、その口元を愉快そうに歪めている。
「目的? そうだね、君というイレギュラーを手元に置きたかったからかな。わざわざ連れてきたのに、歓迎は受け入れられなかったみたいだね。残念だよ〜」
その声には微塵も残念さを感じられない。
「……だとしたら、誠意が足りないんじゃない? 相手を上手く騙して良いようにして使おうって魂胆でいるなら、少しぐらい正体を明かすべきだよ」
僕の言葉に彼女は振り向いた。
「んー、随分と彼女たちに協力的だね。らしくもない。彼女たちとの出会いだけで、そんなに影響でも受けたの?」
「アハハッ、君にはもう分かんないだろうね。でも、仕方ないよ……だって、君は偽神なんだから……そうでしょ?」
現状とミュリアたちの会話をすり合わせれば、最も可能性として信じられる。
「アーシャ?」
困惑したようなヴィネの声に、つい親切に説明しようかと雑念が湧きながらも、彼女に視線を向け続ける。
「……」
「どうしたの? バレて驚いちゃった? そんな飾りの仮面をつけて、正体を騙せるとでも思ったの?」
彼女はただ肩を竦めて答える。
「──いや、名乗るなら最初に君たちに馴染みのある呼び名で紹介したかったからだよ。偽神なんて、つまらない言葉じゃなくてね。刻印と世界の運命を管理するものとして、或いは君たちを月に連れてきたものとして」
無数の羽が僕に降り注ぐ。余計なことを話させないとでもいうように。
「教団の“主教”として、君たちの旅路に終点を」
羽に覆われていく視界の中で、二人の顔が良く見える。
(……本当に、お人好しだね)
少しの後悔と、明かせなかった秘密と共に、僕はデータへと消えていった。




