表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽神〜every night Memories〜  作者: 徘徊猫
第三章 織られゆく運命の物語に

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/76

忘却と新生を

 アーシャはミュリアの助けを借りながら、鍵に関連するデータを引き寄せた。

 そのデータには小さな部屋が現れた。

 ぬいぐるみや壁の飾りが可愛らしく置かれており、生活感と温かな雰囲気にあふれていた。

 「……」

 けれど、今のヴィネにはフレーム越しに見る光景のように見える。


 「ねえ、アーシャ。彼女のマスターはどこにいるのかしら?」

 不思議に思って、ミュリアが尋ねるとアーシャはしばらく動かして、その手を止めた。

 「彼女は生き残りのはずなのに、アムリタに意識をアップロードしなかったみたいだね。このデータは残したみたいだけど……うん、確かに不思議だね。何かないか調べてみよう」


 ヴィネは机の上に置かれている手紙に気がついた。

 「あれを見ることはできるでしょうか?」

 「んー、ちょっと待って。……ふむ、君宛てみたいだけど僕は席を外そうか?」

 アーシャが確認を取ると、ヴィネは首を振った。

 「いえ、読んだあと二人にも聞きたいので」


 その手紙は簡素で、その場で書き留めたものらしい。


 『これは、懺悔というか後悔を整理しようと思って、もしかしたら何かを残したいと考えて書き始めた。


 結局、人間である私はあの子を置いて先に死んでしまう。最後まで一緒にいようとも考えたけど、やっぱり、そんなの駄目だって思ったんだ。


 だって、私がいなくなってもヴィネは私に縛られ続ける。私がそう望んだから。でも、それが作られたニセモノだって思うつもりもない。私だって、ヴィネに誇れるマスターであれるようにって頑張ってきたもん。創造者としても、マスターとしても、恥じないようにね。


 だから、私はヴィネに内緒で彼女を送り出した。一つは私のいなくなったあとを考えて、もう一つは、私がまだヴィネの前で誇れる姿で残るように。


 少しの間、ヴィネのシステムをオーバーロードさせて、宇宙船に乗せた。といっても、無意味な負荷じゃなくて、私からヴィネへの、新生のプレゼント。


 身勝手だけど、行き詰まった世界にいるよりもずっと希望があると思うから。生命力を失った世界では、花が美しく咲くことすらも贅沢で、何かを捨てないと生きていけない。なら、ヴィネに新たな可能性を託そう。それが、彼女を裏切ることだとしても。


 そう、これは身勝手な願い。ここに書いたのも、いつの日か彼女が戻ってきたときに、私の思いを伝えたいってわがまま。許してくれなくてもいい、忘れてても、仕方ないなって思うよ。


 マスター権限の放棄によって、ヴィネは自身の再定義から始めると思う。再び目覚めたときには、彼女の目に映るものがプログラムで支配されないように、時間経過で思い出せるよう記憶をロックした。


 だから、ヴィネの歩む道が生き生きとしたものであるようにって、応援してるから。振り返らず、前に進んでね』


 「……」

 ヴィネは言葉を出せずにいた。

 ミュリアは優しく語りかける。

 「ねえ、ヴィネ。私はね、貴方が向き合ったことに意味があると思う。……私だって、ヴィネがここに留まると決めてしまったら、って考えたわ。でも、どちらの重みも知ったこそ、やっと大切だと思えるの。そういう意味では、貴方のマスターは悩んで、選んだ。今の貴方と同じように」


 「なんというか……面白いことにこの場には純粋な人間がいないから、正しい心が何かはわからない。一般的に家族だから大事に思いたい、あるいは大切にしたいという思いの中に、僕たちはどうしても空白があるんだ。それは自然とあるはずのもので、僕たちに埋められるものじゃない。……ま、最初から心に定めたものから揺らがないなんて、神と同じになっちゃうからね」


 ふぅっと息を吐いて、アーシャはヴィネを見つめた。

 「……。君は子供時代とでもいうものが、やっと卒業できたから、余計に戸惑ってるのかもね。これから君は、多くの選択の岐路に立つ。それが、代価を支払うものであるとしてもね。うーんでも、ヴィネの純粋さは僕は好きなんだけど……そういった時のケアは、ミュリアならできるよね……?」

 「もう、私はママじゃないのよ。それほど人生の先輩というわけでももないし。なら、アーシャはパパにでもなってくれるの?」


 とすっ、と音を立ててアーシャはミュリアに寄りかかる。

 「……ははっ、時間が残されてるならそれも悪くないんだけどね。はぁ……時間というものは無慈悲だ。僕も、体の維持が限界みたいだ」


 脱力した腕はもう上がらない。幸いにも、死に向かっていく中でもデータの体は思考を奪いはしなかった。

 「悲しまないで。どうしようもないんだから。それに、どうせまたアムリタでかつての僕のデータが生成されるだろう。終わらない日常を抜けるために、何度も何度もここを目指して……何も残せないくらいなら、こんな結末のほうが百倍マシだって思うよ」

 それだけでも満足しているように呟いた。


 その様子を見て、ヴィネはアーシャの手を握った。

 「けれど、私と一緒にいたのは貴方です」

 「……」


 心の底から驚いたように、目を見開く。

 「君たちの中に僕も……入れてくれるの?」

 アーシャは驚いた表情を少し複雑なものへと変えながらも、悪い気はしなかった。

 「……うん、嬉しいなって。無為な中にも結ばれるものがあったと思えるのなら、それも悪くないかもね」


 「……僕は、君たちを待っていたんだって今なら思うよ。自分で切り開こうと思ってたのにね……結局は、そういった巡り合わせだった」

 それを残念に思いつつも、どこかで期待もしていた。そして、おそらくこの時にしか得られないものだとアーシャは感じていた。

 「これが、決められたものだとしても……後悔はしないよ。皮肉なことにデータに過ぎない僕のほうが、本物よりも……この点だけなら、僕のほうが幸福かもしれないね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ