数字に消えた思いを寄せて
「その感じだと、あんまり嬉しそうでもなさそうだね」
アーシャはヴィネが返事をせず、沈黙した様子を見て、情報を集める手を止めた。
「んー、もし不安があるのならやめたほうがいいと思うけどね。僕だって、今は過去のデータでしかない。君が自我に対して抱える不安に似たようなものは分かるつもりだよ?」
悩んだとしてもすぐに解決策を見つけそうなアーシャに視線を向けると、アーシャは苦笑を返した。
「あはは、そんな目をしないでよ。僕だって、考えないわけじゃない。ただ、それで深刻に考えるほど興味もないってだけ。どちらにせよ、僕は僕だからね〜。君も不安なら、そう思っておくのがいいよ」
「……ですが、それで本当に良いんでしょうか?」
きっと、向き合わなければ忘れずにずっと奥に残り続けるとヴィネは考えていた。けれど、それを確認してしまえばもう旅をする必要もなくなるかもしれない。
なぜなら、マスターの側にいることこそ、ヴィネに刻まれたプログラムだからだ。
設計原理を否定できるものなどあるだろうか?
「それは僕には答えられないよ。……ああ、君は成長したいんだったね。少なくとも、今のようでありたくはない。でも、必ずしも僕は成長が良いものではないと思う。結局のところ、変化は必要に迫られて行うことだからね。ありのままに、気ままに生きるのが一番だよ。僕みたいに。そうでしょ、ミュリア」
「あら、そんなに言われてしまうと、私からいうことがなくなっちゃった」
ごめんごめん、とアーシャは軽く流した。
ヴィネは答えを見いだせずに、ミュリアにも聞くことにした。
「ミュリアはどう思いますか?」
「うーん、そうね……もう少し貴方のマスターを信じてもいいんじゃないかしら。その鍵がどんなものであれ、貴方への贈り物だと思うから。心配なら、私もついていくから」
ミュリアは手を伸ばして、ヴィネの手を優しく握った。
「それでも不安なら、ヴィネは大丈夫だって思う私を信じて」
「ミュリアは、私を信じるのですか?」
「仲間だもの。信じてあげたいって思うでしょ?」
「それは、論理的に破綻しているかと……」
ミュリアは気にしないで笑みを返す。
「ふふっ、確かにそうね。でも、根拠なんていらないかもしれないわ。だって、願いってそう思うだけで価値があって、論理を超えた想いなの」
「……私には、やはり心が分かりません」
想いという目に見えない熱を、どうやれば測れるのだろう?
「どうすれば、みんなの側にいたいと思えますか? どうしたら、ミュリアに気持ちを返せますか? どうなればナディアと、笑い合えるでしょう? なぜ……私は機械なんでしょう……」
今までの自分とかつての自分、そのどちらも既に刻まれた過去。同じ源から出ていて、分けられるものではない。
「心があれば答えを選べるのでしょうか」
過去の記憶が訴えかける。
なぜ、マスターは私だけを生かそうとしたのか、と。
ここなら、彼女もいるかもしれない、と。
(私は、その思考に委ねていいと思っています……)
けれど、返ってくるのは虚しい反響だけ。
夢のように、幻のように聞こえるだけ。
(どうすればいいんですか? 命令でも、何でもいいんです)
かつての自分は影も形もなく表すことはない。
(……結局、確認するしかないのでしょう。それで、みんなの側にいられなくなるとしても)
「……行きます。どちらにせよ、向き合わなければなりませんから」




