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偽神〜every night Memories〜  作者: 徘徊猫
第三章 織られゆく運命の物語に

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迷路を進んで

 「文明が滅びったって人はそれなりに生き残るらしい。やっと核心に近いデータに近づいてきた」

 アーシャが適当に拾い上げたデータの中には、アムリタが滅亡したあともひっそりと一部の人達がシェルターを築き、生き延びている姿を見ることができた。

 しかし、どんなデータも最後には資源の奪い合いという終点に向かって幕を閉じる。地上は荒れ果てて、作物を植える場所はどこにもないのだから、人の命を維持するにも消費が上回って、飢餓が流行る。

 「なるほど、外の世界は悲惨な結末を迎えたみたいだね」

 人の行いは短絡的だ。死の危機が目前に迫れば、生きるための糸を藁をも縋る思いで掴む。善悪ですらなく、ただそういった一元論まで退化する。


 「……こちらでは、母が子のために自らの食料を分け与えたそうです」

 ヴィネは複雑な表情でそれを眺めていた。

 「一秒二秒の差って、どのくらいなんだろうね? ここで生き延びたって、しばらくしても食べるも4が手に入らなければ結末は変わらない。ただ苦しみが長く続くだけなら……」

 「変わらないと?」

 アーシャはどう言葉にするべきか、と迷うように口にした。

 「さあ? 結局のところ、良かったなんて評価は主観でしょ。母親にとってはそれが良かったのかもしれないけど、子どもにとって同じとは限らない。残酷かもしれないけど、母親の愛は無限であっても命を支えるには足りないし、報われるとは限らない。生きて、なんて願いだけで叶うものなら、最初からこんなことになんてならないから」

 「あなたは、母親というものに対して随分冷めた態度をとるのですね」

 「僕にはいないから分からないな。だから、なんで彼女たちがそこまで子供を守るのか、よく分からない。本能? それとも道徳? 或いは心というものかもしれない。まあ、僕はよく人の心がないって言われたけどね」

 アーシャは気にすることなく笑って答えた。


 「人の心は、複雑です。一体どんな原理で、なぜそうするのか? ずっと考えています」

 数々のデータ、過去のヴィネの記録を見て、ヴィネ自身は余計によく分からなくなっていた。

どうすれば正解なのか? どうすれば、正しく動けるのか?

その解決できない疑問は常にヴィネの中に秘められていた。

 「君のそれは知的欲求のため?」

 「知らなければならない、と思うのです。でなければ、私は何をするべきなのでしょうか?」

 ヴィネにとって、仲間は受け入れてくれた場所だった。それと同時に、彼らの姿をありありと記録してきた。

 ミュリアの優しさは常に示される形で表れてきた。

 シグルドの熱は密かに、けれど障害を確実に切り開いてきた。

 ナディアの奔放さは何にでも価値を見出す瞳に宿っていた。

 彼らは常に何のために、どうするべきかを知っていた。だから、迷うことはないし、挫けることなく前へと進める。


 「私はただの機械、機械である以上は何かのために生まれました。けれど、私にはもう道具として扱ってくれる存在はいない。今は、ただ彼らの側に立っても問題ないようにいたいです。そうでなければ、私は彼らの仲間に値しないと、そう思っています」

 ヴィネは意外そうに、少し驚いた表情をした。

 (仲間にとって、価値のある自分でありたいってことかな。ふうん、面白い。消極的だけど……)

 その反応はアーシャにとって興味深いものだった。単純なものよりも複雑なものに興味を持つ、アーシャは微笑ましそうにヴィネを見つめた。

 「なら、新たに自らを定義できたとき、君は心を手に入れてるのかもしれないね」

 「心……そうですね、そうあればいいと思います」

 「ま、ゆっくりやればいいよ。ミュリアだって、そういうつもりで見守ってきたんでしょ。やっぱり、君たちを友達にしたいと思って正解だった」


 アーシャが気分良く前へと進む姿を、ヴィネは見つめていた。

 (……)

 ヴィネはアーシャに対して、危うさ、或いはアンバランスさを気にしていた。

 (関心ごと以外に興味を示さない。純粋で、それでも物事の道理を理解している)

 それは狂気に近いといってもいいかもしれない。

 誰だって、近寄るべきものとそうでないものの区別はつける。けれど、アーシャはその区別が極端過ぎる。

 (仮説として──アーシャにとって、友だちとは“期待”の証なのかもしれません。そう、まるで孤独な子どもが誰かを待ちわびるような……)

 それが母親なのか、別のものなのかはヴィネにも分からない。


 ただアーシャは前へと進み続けていた。


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