一方その頃 その1
シグルドは目が覚めてから、仲間たちを探すために外へと出ようと焦っていた。
本来なら、なりふり構わずに外へ出ても良かっただろう。
だが、よりにもよって来てしまった場所は最悪だと言う他なかった。
教団の本拠地アクバーラ、シグルドからしても一度も踏み入れたいと思うことはなかった。
庭園や水が張り巡らされて整っており、花々と調和したこの場所の美的な美しさは他の都市では見られないものだろう。
その美しさは、今、シグルドにとっては何の慰めにもならない。
「おいおい、また起きてるのか? 無茶するなよ」
一人の男がシグルドのいた部屋に入ってきた。その男はがっしりとした体格で、派手な服を着た男だった。
「ウルカ、助けてもらったことには感謝しているよ。でも、僕は……仲間たちを探しに行かなければならない」
「だから、それが気が早いって言ってんだ。あっちだってお前を探してるんだろ。それに、もし二人が攫われていたとしたら、その場所は教団のやつしか知らないはずだ。そのとき、どこで過ごすつもりだ?」
「そうなってしまったら、君にも迷惑がかかる。それでもいいのかい?」
シグルドの言葉に、ウルカははっと笑い飛ばした。
「下町の連中は教団の信仰になんて興味は微塵もないし、気に入らないからな。それに、そんなものよりも大事なもんがある。一人、命を張ろうって時に見逃すやつにはなりたくない」
ああ、と言って、ウルカは荷物を下ろして食料を渡したあと、外で見てきた事を話した。
「そういえば、お前の仲間にナディアって奴がいるんだよな?」
「それがどうかしたのか?」
「いや、お前に聞いた特徴に似たやつを見かけて、追ってみたんだが撒かれちまった。ただ、今も視線を感じるんだが」
袋に残っていたリンゴを空中へ放り投げると、リンゴが浮かんだまま歯形を残した。
「うぇっ、まず……。ちょっと、渡すならもっとマシなのにしてよ」
「正面から入ればそうしたさ。だが、紛れ込んだ野良猫じゃ、余り物ので充分だろ」
そして突然現れたナディアを置いて、ウルカは部屋を出ていった。
「はぁ、随分と幸運なことだね。こっちは駆けずり回って大変だったっていうのに。どのくらいかけたと思ってるの?」
ナディアは普段通りに振る舞いながら、シグルドのベッドに腰掛けた。
「フィオルナを頼って探す手配をしてもらったり、アウルバスのことで色々あったり、こっちは大変だったんだからね」
ナディアは手紙をシグルドに渡した。
シグルドがそのまま開くと、その手紙はフィオルナが書いたもののようだった。
『予め言っておく、不覚を取ったな英雄。
何が起きたのか、私からは知りようがない。
だが、差し詰め、ミュリアの偽神化の策略が刻印を定める何者かの視線を引いたのだろう。そこから守れるのはお前だけだというのに、今回、お前はその役割を果たすことができなかった。
それはお前も自覚しているだろうから、本題に入ろう。
もし、教団とお前が全面対決になった場合、私は力を貸すつもりはない。個人的な恩があれ、国王としてお前に与するわけにはいかない。要件はそれだけだ』
端まで読むと、小さくこう書かれていた。
『追伸、お前はあの娘がどれほど心を砕いていたのか知るといい。中核のいない組織はすぐに瓦解するぞ』
「フィオルナらしいな」
シグルドは読み終えたあと、ナディアを見た。
ナディアはただ、窓の外を眺めていた。
「その感じだと、一番最悪みたいだね。ヴィネも、ミュリアも、どこに消えちゃったんだろう……」
その声にはあったはずのものがないような喪失感を伴っていた。
「で、次はどうするつもりなの? 教団の中にでも攻め入る?」
「それは最終手段だ。できれば、僕たちを襲った教団の関係者が誰かを突き止めたい」
「あの怪しげな道化にでも頼る? あいつ、ちゃんと話してくれそうにないけどね」
疲れに身を任せて、ナディアは背中をベッドに倒した。
「疲れたから、少し寝かせて……」
シグルドは一人、部屋の外へと出た。少し離れたところで、ウルカは月を見上げていた。
「話し合いは終わったのか?」
「……どうだろうな。ある意味、振り出しに戻っただけかもしれない」
ミュリアを探すという目的でなら、団結することもできるだろう。だが、そうでなければ力を合わせるのは難しい。
「一人では行くなよ。暴走すれば、堕ちるところまで堕ちていくからな」
ウルカが肩を叩く。
(……どちらにしろ、行動をしないわけには行かないんだ)
シグルドは覚悟を決めて、教団へと足を踏み入れる決意を固めた。




