時を止めた都市
二人がヴィネを抱えてポータルを潜ると、そこには高層の建物が天井まで伸び、看板の上を文字が流れていく非常に発達した都市へと足を踏み入れた。
「そのポータル? って、すごいわね」
「アムリタ、この都市と遺跡を行き来するのに使えるだけだけどね。それに基本的に僕が通ったら消えちゃうから、君が目覚めてくれて助かったよ」
アーシャの案内のもと、とりあえず彼女の家に着いた。
部屋の内装は家具があまりなく、質素で清潔感がある。
「あまり使っていないの?」
「ここで寝る必要がないから。それに、遺跡に行っていると戻って来る機会もないからね。うーん、人が来るならもっと飾ったほうが良かったかな」
アーシャはぽちぽちとボタンを押して、暫くして出てきたマグカップを持ってミュリアの前に置いた。
「ここって随分と発展してるのね」
「そう?」
アーシャはなんてことなさそうに返した。
「でも、ここでの生活は退屈でつまらないよ。遺跡に行ったって、いくぶんかマシな程度で、どこを見ても代わり映えがしない。なんたって、変化がないからさ」
仕方ないよね、と肩を竦めて、ミュリアをちらりと見た。
「僕だけ喋らせるのはずるくない? 君の話を聞かせてよ」
「そうね、今度は私から──」
ミュリアは今までの旅を話した。
「あははっ、偽の神を作る、か。随分と大胆なことだね」
その反応にミュリアは驚いた。
自分でも、壮大な旅路を振り返ると現実味がなくなるのに。
「私でも突拍子もないことだって思うのに、疑ったりしないの?」
「君はそういうタイプじゃないと思うから。話を聞いていて思ったんだけど、君って結構純粋な人柄だよね。世の中には裏に何個も抱える人だっているんだから、気をつけたほうがいいよ」
「そういうあなたは、その中に入るの?」
「僕? んー、そういうわけでもないかな。ほら、友達ってあまり隠し事をしないものでしょ。僕は君の友達になりたいんだ。そんな相手に誠実な対応をしないわけがないだろう」
そう言って、アーシャは笑う。
「けど、その偽の神を世界の管理者或いは真の神に消させることが狙いだったんだよね? そうすれば、本来関わるはずのない存在を噛ませて、流れが多少なりとも変わるから。どうして、そんな読みができたの?」
ミュリアは少し言い淀んで、誤魔化すように笑う。
「私にも、正確には説明できないの。けれど、私には人の後悔や苦痛を抱えても耐えられる自信があって、それをするだけの理由があったからやっただけよ。それで、管理者を怒らせてしまったかもしれないけどね」
「それは怖いね……でも、“刻印”に“教団”か。そういったのは今まで聞いたことないんだ」
ミュリアの表情を観察しながら、アーシャはくすくすと笑いを堪えて話す。
「僕たちの文明、いや世界ではそんなものはないはずだ。だから、君たちは思ったよりも遠いところから来てしまったのかもしれないね?」




