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偽神〜every night Memories〜  作者: 徘徊猫
第一章 血の杯を掲げよ、狂乱に酔いしれて悲哀を聞け

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ぶつかりあう金貨

 初戦からしばらくして、シグルドは連勝を重ねて決勝までの道を繋げた。正面から堂々と迎え撃つ者もいれば変則的に翻弄する者、そして刻印の力を使うものたちを苦難の末に倒してきた。

 そんな休憩の合間に二人は都市の郊外であの幼竜と戯れていた。

 「この子をいつまでも憲兵たちが保護できるわけじゃないものね」

 「できれば元の場所に返してあげたいけど、手がかりはない。かといって余所者の僕らじゃいつまでもこの子の面倒は見てあげられない……」

 幼竜は楽しそうにボールで遊んでいる。しかし、そんな日が長くは続かないと二人は知っていた。

 「……なら、ナディアに頼るのはどうかしら」

 「あの商人のことかい? 確かに手を貸してはくれるかもしれない。でも、闘技場で噂になっているんだ。彼女の商売自体は非合法のものじゃない。対戦相手の情報を売る程度のものだからね。ただそれに対してあまり良く思わない人もいるし、どうやって情報を入手しているのかが怪しい。彼女の商売は信頼性と正確性、そして速さが売りになっているから、本当に独自の情報網か入手手段があるんだろうね。本人の噂はそれくらいで、逆恨みとかに対して逆に持ち前の情報で黙らせているようだけどね」

 「逆に考えれば、彼女さえ分からなければ私たちにできることは少ない。だから、行きましょう」


 ナディアの店は堂々とはしていないが、中心部からそこまで離れていないところに居を構えていた。

 玄関の扉を開けると鈴の音が響いた。しばらくすると、眠そうな様子でナディアは現れた。

 「ああ、あの時のお嬢さんと闘技場のダークホースの子だね。早速来てくれたんだ、なんの用? 二人になら多少割引してあげてもいい」

 「ええ、ナディア。今日は依頼があってきたの。でもよく考えたら私が名乗る前に何処かに行ってしまったのよね」

 「それなら大丈夫、名前は知ってるから気にしないで。ほーら、依頼のために来たんでしょ? お茶出すから座って、座って」

 二人はナディアに案内されて奥の部屋に連れてこられた。部屋の雰囲気は様々な工芸品のコレクションや不思議な仕掛けのからくりなどが置かれている。

 お茶が届いた頃に、ミュリアは本題を切り出した。

 「実は迷子の幼竜を保護しているんだけど、その子を元いた場所に返してあげたいの。何か知らない?」

 「ああ、噂で聞いたよ。まさかそれに巻き込まれてたのがあんたとは思わなかったけど」

 「意外だな、君は全てを知ってるように振る舞うものだから既に要件も把握してるかと思ったんだけど」

 「あのね、あたしだって暇じゃないんだよ。これは商売、ビジネスなんだから憲兵の案件になった時点で対象外なの。まあ、あっちから頼まれたら考えなくもないけどね。だから、そんな事件のために駆けずり回る優しい二人がいるとも思わなかったってわけ。あんたらがいなかったら、今ごろその子は調教施設にでも入れられてひぃひぃ日銭を稼ぐためにムチを打たれてただろうね」

 ナディアは立ち上がって棚から帳簿を取り出した。ペラペラとめくりながら、ある情報を二人に教えた。

 「本当なら、その密輸をやらかそうとした奴らをとっちめるのが最善なんだけど、最近その流れが多くてね。あたしでも追い切れるか分からないんだ」

 「それはどうして?」

 「さあね、悪党の考えることなんていちいち考えてたらあたしの脳みそがパーになっちゃうって。幼竜を密輸する理由なんて、愛玩用以外ないだろうし。どこぞの国王さまでも欲しがってたんじゃない? 竜を飼いたいなら、大人のやつを買ったほうが効率的だし合法で行えるもん」

 ペラペラと捲っていた分厚い帳簿も薄くなってきた頃、ナディアは帳簿から探すのを諦めたようだ。

 「だーめ、すぐに見つからないだろうね。だから、報酬の話をしよう」

 「この件の資金は僕から出そう。僕も手を貸すと決めた身だ。あの子を家に返すためにも、できることはしてあげたい」

 「おお、健気だね。いいよ、こうしよう。あんたの優勝した賞金の半分ってとこで」

 にんまりと笑うナディアに、ミュリアは目をパチパチと瞬かせた。

 「それは……ねえ、シグルド。やっぱり私からもだすわ。だって、きっかけは私からだったんだもの。賞金はあなたが勝ち取ったものだから、私も半分くらいは出さないと不公平じゃない?」

 「いや、これで構わないさ。元々、賞金はあまり気にしていなかったんだ。もちろん、勝ちを取りに行くつもりだよ。ただ、ナディアさん。それは僕が勝つことが前提の場合だ。もし負けたとしたら、そのときはどうするんだい?」

 「負ける? あんたが? ないんじゃないかな。どーせ、こんなお飾りの舞台に本気のやつは中々出てこないって。特にこの国の黒将軍ってやつはべろぼうに強くて有名だけど、一度も大会に出たことはない。見たところ、あんたはあれに引けを取ってないみたいだしいけるでしょ。それとも、何か不安でもあるの? もしくは払いたくないとか?」

 「そういうつもりじゃ──」

 「仕方ないなぁ、ちょっと来て」


 ナディアはシグルドを呼び出して、ミュリアから離れた場所で会話を始めた。

 「何でミュリアから離したんだ?」

 「あんたがあんまりにも鈍感だからだよ、英雄くん」

 その言葉を聞いたときシグルドに緊張が走った。

 「ちょいちょい、怖い顔しないでって。あんた、堂々と入国したんだからバレないわけないって。少なくとも、国の上の連中はあんたを認識してるよ。まあ、普段なら歓待してくれるんだろうけど……最近、この国の情勢は不安定なんだ。そんな中に現れた君は、上から見れば不穏分子なんだよ」

 「僕にだけ警戒するなら大したことじゃない。だが、君の言い振りからしてミュリアが狙われる可能性があると言いたいのか?」

 「本当に政治ってやつを理解してないんだね。考えてみた? あんたという盤面をどうとでも搔き回せる存在とそれに親しげに接する女の子。はてさて、その少女はただの一般人なのかな」

 「……僕のせいか。なら、教えてくれ。僕はどうすればいい」

 ふふん、とナディアは魚を釣り上げたかのように上機嫌に笑った。

 「簡単だよ、優勝するしかない。そうすればあんたは王城に招待されて歓待を受ける。そこで次に旅に出る予定でも伝えておけばいい。引き留められるかもしれないけど、次の国が英雄を待っている、とでも言えばいいよ。引き留めはしないだろうから。今大事なのは二つの勢力を刺激しないこと。一つは現国王陣営、王子を擁立していて色々ときな臭い部分はあるけど国の黄金期を築いてきた今の王族。問題は二つ目の方なんだけど、あっちからすればあんたは今まで欲してきた最高の剣だろうね。そっちは前国王の時代に行方をくらました王妃の娘、影に潜んで暮らしてたところを現国王に拾われた王女の陣営だよ」

 「この国では次の王位をどう決めるんだい?」

 「もちろん、現国王の実子が法律的には優先されるんだけど……面倒なことに王女さんは生まれながらの刻印持ちでね。しかも、それが“王”と来たもんだから国中が大荒れで。人間の法律より神が認めた人間の方が相応しいんじゃないかってね」

 「その王女は大丈夫なのか?」

 「大丈夫……あははっ、心配されるなんてあの王女からしたら思いつかないようなことだよ。本当の混乱の元は、王女が本気で王位を狙っていることなんだ。しかも、誰かの傀儡でもなく自分の意志で選んだ。お陰で黒将軍が中立に立ってくれなきゃ、国は今にも内戦状態になってただろうね。あの傑物が相手だと、こんな重鈍な国だってすっきりするかも」

 「なんだか、楽しそうな話をしてるわね。私も混ぜてくれない?」

 ナディアとシグルドがその声の方を向くと、ミュリアが笑顔で立っていた。

 「もうっ、置いてけぼりなんて悲しいわ。全部は聞こえなかったけど、要するにシグルドが優勝していい感じに輪を収めればいいのね」

 「何処まで聞いていたんだ?」

 「ん? ナディアが国の内情を話し始めたところかしら。ほら、お茶も冷めてしまったし、新しく用意してあげたんだけどずっと話してたから隠してあったお菓子を幾つか食べさせて貰ったわ」

 「よく見つかったね、へそくりほどじゃないけど隠してたのに」


 「ここに偶然集まったとはいえ、この関係が一時的なものであっても、私たちは仲間でしょう? なら、仲間外れは許さないから♪」

 明日は決勝戦、シグルドは自然と包帯を巻いた手を見た。その手をミュリアは優しく握った。

 「大丈夫よ、私たちもいるもの。あなたはあの戦場で勝つことだけ考えればいい。私はあなたが言葉で惑わされないように側にいるから。一緒にこの戦場を乗り切りましょう」


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