沈みゆく深淵へと
遥か高い空の上から注がれた視線は少しの間であっても、ミュリアたちの下へと注がれた。それだけで地面は揺らぎ、何か大事な支えを失っかなように崩壊していく。
「今度は何が起きてんの!?」
予想外の事態に、ナディアはまともに動けない状態で悲鳴をあげる。
「はやく! 空間が崩れてるよ!」
エリンがナディアを背負って走る。
ジェイスがシグルドを、ミュリアがヴィネに肩を貸して、崩れていく空間を進んでいく。
エリンが入ってきた入口まで最初にたどり着き、扉を開いた。
「みんな、早く来てよ。誰か欠けてるなんて、この期に及んで言わないでよね!」
ナディアはそう言って、エリンによって出口に入った。
「うちは閉じないように見とくから、入って!」
シグルドは自分たちより後ろにいるヴィネとミュリアに振り返る。
「ジェイス、僕は一人でも行けるから彼女たちを」
「今は一人でも出口に辿り着くことが優先だ。それに一番消耗してるのはお前だろう……」
その瞬間、地面が大きく揺れて2人との間に亀裂が走る。
衝撃の弾みか、ヴィネの胸元に掛けていた小さな鍵の紐も千切れた。
「あっ──」
ミュリアがそれを察して何とか地面に落ちようとする鍵に手を伸ばしたが、無理にバランスを崩したことで二人して亀裂へと倒れ込んでしまう。
そして溝へと落ちそうな状況で、一つの手がミュリアを掴む。
「ミュリア!」
シグルドはジェイスを振り払って、彼女を落ちる寸前で掴んだ。
「……っ」
ミュリアは普段では見せない苦しそうな表情で、下にぶら下がるヴィネを支えていた。シグルドはなんとか上に持ち上げた。
「──逃がすわけにはいかないかな」
不意に声が聞こえたあと、ジェイスとエリンは出口の扉へと吹き飛ばされる。シグルドは咄嗟に背後に炎を向けた。
しかし、その炎は空中でこちらを眺める者に傷一つつけられなかった。
その炎から見えた姿にシグルドは驚愕と怒りが湧き上がる。
その服装はシグルドにとっては見慣れたものではあった。
「こんな時に、教団の人間が何の用だ!」
「君は邪魔」
その言葉と同時にシグルドの周囲が歪む。
そして何処かへと消えてしまった。
シグルドは浮遊感を感じたあと、何度も屋根にぶつかって地面に激突した。血だらけの視界で周囲を見ると、見知らぬ場所へと飛ばされたようだ。
「……ミュリアっ……ヴィネっ……」
出血で視界が歪んでいく。
ふらふらとした足取りで、何処とも分からぬ路地を進む。
音は聞こえない。或いは、耳が壊れているのだろう。
静寂だけが支配する。
唇を噛んで、痛みで正気を保とうとした。
けれど、視界は徐々に暗転し、霞んでいく。
立ち止まるわけには行かない。
もう失うわけには──
何かに当たって、彼は背後に倒れて気を失った。




