長き夜に虚無へと還る
決断による好転、努力による救済、どうあるべきかを選択し刻もうとする人々の物語は壮大な物語といえるだろう。
それが人間にしかできないのかはさておいて、それでも逃れられない“因果”がある。
例えば、それは実力と言い表せるのかもしれない。
実力が及ばない相手に気持ちで勝てるわけがない。
なぜなら、その気持ちの積み重ねが実力として培われたはずだから。
ましてや、冷徹無比な運命というルールならなおさら、その結末に抗うにはさらに大きな力によって覆すしかない。
さて、長話はここで終わろう。
アウルバスの問題は行き詰まった結果にある。
学者たちの執念は記憶の中に呑まれることなく、独立してしまうほど強く存在してしまった。
それから逃れるには誰かを生贄に鎮めるしかない。
この前提を崩すには、その執念を別の形に変えるしかないんだ。
そして、アウルバスという土地に積もった暗黒の歴史は、恨みや後悔、人間性を捨てれば究極的な理性を構築する。
それはある種の“ルール”に行動原理を縛られる。
“知ること”
それは何かを知らずにはいられない。
だから、それは何よりも彼女を見つめた。
「あなたにとって、私たちは取るに足らないものでしょう。でも、あなたは私を知らずにはいられない」
ミュリアという少女は運命を書き換えるための博打をした。
「あなたがこの世界の全てを知る“学ぶ者”であるとしたら、この世界に属さない存在に興味を持てない、なんてことあるのかしら?」
それは言葉を発する事はできなかった。
けれど、彼女のために必要だと感じて、口を開いた。
《お前は、誰だ?》
それは言葉でなかったのかもしれない。
けれど、その意味だけが伝わる。
「私はミュリア。覚えておいて、私は普通の女の子よ」
それは意味がわからないというように首を傾げる。
ミュリアは普段と変わらないように、優しい声音で語りかける。
「あなたに、私の全てを開示してもいい。だから、見逃してくれる?」
それはシグルドに視線を向けた。
「確かに、彼はあなたに剣を向けた。けれど、その脅威はあなたにとって警戒するほどのものかしら?」
そういうと、それは関心を失ったようにミュリアへと視線を戻した。
「もしかしたら、あなたなら私が何者なのかを知ることができるのかもしれないわね。そして、ずっと私が抱えてきた疑問……“空を覆う幕のようなもの”の外にある何かを知覚することができるのかもしれない」
《フ、フハハッ、見つけた。見つけたぞ、真理!》
それは興味を持ったかのように翼を生やして、空高くへと飛び立った。
さて、そろそろ来るかな?
まるで映像で見ていたそれが、実物として出てくるような感覚を久しぶりに感じた。
愚直なほど一直線にこちらへと上ってくる。
「はぁ……突然寝起きに叩き起こされた気分だよ」
それがこちらに気づいて立ち止まった。
「どうしたの? 追い求めるそれはこの先だよ」
それは大人しくなったセミのように動かない。
「なに、恐怖でも感じてるのかな。それとも……やっぱり偽物は所詮偽物の知性しか持ってないってことかな」
つまらない。
「止めようと思ったけど……うん、この世界の外に出てもいいよ」
それを世界の幕の外へと案内した。とはいえ、外には何もない。
ただ、真の創造主による鋭い視線があるだけだ。
《おお……おお!》
それは創造主に向かって手を伸ばす。
赤子や死ぬ前の老人と同じように。
それは頭を垂れ、全貌も掴めぬままに注がれる視線に対して平伏した。
けれど、その視線にそれは映し出されない。
そんな価値はない。
そろそろ、3分ってところかな?
《……!》
それの足が徐々に崩れていく。
それはまるで太陽の光で氷が溶けていくかのように。
《そうか! 私たちは──》
ふふっ、おかしくてつい笑ってしまう。
これじゃ、これは道化みたいじゃないか。
「良かったね。そんな結論、とっくの昔に解明されてしまったのに」
《夢幻泡影に……》
さよなら、哀れな学者たち。
「いい眠りは良い寝物語がないと駄目でしょ? だから、消えて」
干渉できない存在がいると、色々と面倒しか残らない。
この無限に続く戯劇にはまだ続いてもらわないと。
遠くからある少女へと視線を向けた。
彼女は最初から、あの出来損ないではなくこちらに結末を書き換えさせようとしていたらしい。
「……さて、どうしようか」




