弔鐘者とレクイエムを 悪夢の中で
剣戟は途切れることなく怪物に迫った。
シグルドの剣は怪物に致命傷を与えないまでも、動きを読んでじりじりと傷を負わせる。
怪物は斬られること自体は不快なのか痛みから逃げるように避けている。それなら、人を相手にするときと変わらない。
一撃目であえて逃げ場を用意して、誘導した場所に二撃目を放つ。
しかし、何度も繰り返せば怪物も学習してくる。
一撃目と二撃目の間に怪物は前に出る。
その一瞬で隙が生まれた僕に、鋭い爪が伸びてくる。
それをヴィネが蹴り上げて、その反撃を阻止した。
「助かったよ」
「礼はいりません──次が来ます」
たった一人ではシンプルな動きでも連携すれば防ぎにくいものにもなる。僕の攻めの合間をヴィネがカバーすることで、怪物に攻める隙を与えない。
僕とヴィネ、どちらかの足を止めない限り優位は続く。
そして、それは怪物も学び始めているだろう。
少しずつ、その瞳に知性が宿り始めている。
しかし、連携を乱すだけでは致命傷はこちらに届かない。
本当に崩したければ──
「!」
いつの間にか足元に影の手が伸びて、振りほどけないほど固く掴まれていた。
すかさず、ヴィネがこちらの援護をしようとした瞬間、
──凄まじい音ともにヴィネの腕が弾け飛んだ。
「ヴィネ!」
からからと歯車のようなものが地面に転がり、遠くに吹き飛ばされたヴィネが何度も体を打ちつけてやっと止まった。
足の拘束を振り払ってヴィネの下に駆け寄ろうと踏みしめた瞬間、視界に霧がかかり始める。
(くっ……霧の精神錯乱か)
油断していたつもりはなかった。
だが、最も効果的なタイミングを見計らって、あの怪物は罠を仕掛けていた。
僕を動揺させるために。
どこかともなく悲鳴が聞こえる。
(現実じゃない……)
不確かな足取りで、ヴィネへと近づいていく怪物を追う。
『助けて──助けてくれ!』
(まやかしに耳を傾けるな!)
胸を押さえて、一歩を踏み出す。
「……すっ」
呼吸が重い。
だとしても、前へと進まなければならない。
ヴィネは片腕で起き上がり、必死に抵抗を続けていた。
足りない手を、足技で補いながら。
けれど、その抵抗も長くは続かない。
ヴィネは持ち上げられて、力なく垂れ下がった四肢が抵抗の限界を告げている。
霧で包まれた視界はかつての焦土を映し出す。
緑で生い茂った草原は炎に呑まれ、家々は柱が屋根を支えきれずに傾く。無惨に引き裂かれた人形、そこら中に広がる血の池。
瓦礫の下で息を隠しながら覗き見た景色と重なる。
(英雄がいれば、助かったのかな……)
それは灰燼から起き上がった一人の少年の声──
「ぁぁぁあああっ!」
雄叫びを上げて怪物の背中を切り裂く。
瞬時に再生するが、それでも構わない。
次の瞬間にはヴィネを掴んでいた腕を両断する。
けれど、ヴィネを受け止める余裕はない。
だから、炎で背後に境界を引いた。
「……ここから先は僕一人で行く」
過去の目を曇らせたりはしない。
その夜から、一体どれほど繰り返したと思っている。
剣を鋭く怪物へと向けた。
(そろそろミュリアの方も大詰めだろう……なら、あと数時間でも戦ってやる)




