弔鐘者とレクイエムを その6
人々が見守る中でエリンは杖を振りかざし、杖の先から空間がひび割れてゆく。その空間から憎悪の気配が溢れ出し、じりじりとした不快な感覚がまとわりつく。
エリンは振り返り、ミュリアを見た。
「ここから先は戻れないかもしれない。それでもやるの?」
ミュリアは頷き、ひび割れた空間へと手を伸ばす。
「もちろん」
アウルバスが築き上げた記憶は木々に囲まれて、その表面を結晶が覆っていた。
「森は誰でも受け入れる」
知恵の庭、思考のほとり、記憶の墓場。
アウルバスという土地は今も昔も変わらない。だからこそ、アウルバスはたった一つの業によって侵食されてしまった。
どんな真理も、人々を救うものではなかった。
賢者たちは森を彷徨い歩き、足を止めた時に終わりを迎える。
そこには数多の悔恨と嘆きによって多くの人が未知の先にある虚無へと陥ってしまった。
諦められればよかったのかもしれない。後悔を受け入れられればよかったのかもしれない。
けれど、それを諦められたのなら最初から旅立つことはなかったはずだ。そこに救いはなくとも、知りたいという気持ちは禁忌を打ち破る。
空気だけが、ひりひりとした緊張感とともに漂ってくる。
静寂、自然、月……それらに暗雲が差し迫り、地面から手が湧き上がり、エリンを捕らえようと伸びてくる。
エリンは払い除けず──
「賭けは一度きりだよ」
空間を突き破り、一点に降り注ぐ月光を手に収めた。
凝縮した光を上空に投げると、それに目掛けて一斉に多くの幻影が収束していく。
集まったそれは胎動し、暗闇の中から過去のヴィネと同じように現実へと顕現する。
膜を突き破り、知を求める執念は一つの体を得た。
結晶で構成された空間を砕き、耳に響く産声を上げる。
「はぁ、学者の執念ってめんどくさいね」
ナディアは呆れたように呟く。
「微力ながら──最大出力で戦わせていただきます」
ヴィネは拳の調子を確認する。
「人々の安寧のため、“隠匿”の刻印をここに刻もう」
ジェイスは覚悟を語る。
「それが今を生きる人々に立ちふさがるというなら、僕は剣を掲げよう」
シグルドは刻印を隠さず、ただ敵に剣を向ける。
「真理に至れないのが未練だっていうなら、思う存分理解させてあげる」
ミュリアの言葉とともに、反抗が始まった。




