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偽神〜every night Memories〜  作者: 徘徊猫
第一章 血の杯を掲げよ、狂乱に酔いしれて悲哀を聞け

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その血で刻め、不朽の名を

 闘技場では歓声が響き、多くの勇士が舞台へと上がる。その中でミュリアは昨日のことを思い出していた。


 「明日はやっと試合が始まるわね。私も観客席で応援するから頑張ってね♪」

 「ありがとう。緊張というほどでもないんだけど、こういう舞台は初めてだから少し肩に力が入ってしまうけど、なにいつも通りの力を発揮できれば勝てるはずさ。それよりも、君も見に来るのかい?」

 「意外なの? 確かにこういったことに興奮するタイプではないけれど、あなたが出場するんだから見に行かないと」

 「ははっ、余計に恥ずかしい姿は見せられないな」


 シグルドは次の番を待ち、深く深呼吸した。

 「……大丈夫さ、これまでのことは無駄じゃない。僕の成長を試す時が来たんだ」

 闘技場の表に出ると、多くの視線が降り注いだ。多くの人々は考えているのだろう。あの若者はどの程度のものなのかと。

 いつも通り、きつく巻いた包帯で剣を手に取った。その剣先には対戦相手が不敵な笑みをしながら立っている。シグルドは自然と笑みが漏れた。少年のように純粋で、相手と同じように戦いに酔いしれる笑みを。

 金属が打ち合う。技量は負けていても、相手は予想外の轟撃に驚いたようだ。シグルドは一撃、一撃と相手を追い込むように重ねていく。間違いなく追い詰められているのは相手の方だ。だが、だからこそ最後のチャンスを相手は狙ってくる。

 「僕の勝ちだ」

 相手の強行は鋭い剣先によって振り払われた。精力を使い果たした相手は地面に倒れて、シグルドは緊張を解いた。その瞬間に歓声が上がる。この若者に多くの人々が魅了されたのだ。

 「おーっ!」

 シグルドが声を上げると熱狂も最高潮に達する。観客に手を振り、その観客席の中でも目立つ少女を見つめた。

 ここにシグルドは戦士の勇姿を刻みつけたのだ。


 (良かった、僕の力でも戦える。あの力に頼らなくても、僕は人を守れるんだ……)

 シグルドは本番と違い、ただの試合で命はかかっていないはずなのにその緊張は今までよりも重く感じた。

 「これが、期待ってやつなのかな。一人でいた時よりも勝利が嬉しい」

 かつてのごっこ遊びも今や確かな感覚が手に響いてくるという感覚に、シグルドは何度も握った手を見つめた。

 「よし、今日は勝ち星を挙げたんだから彼女も誘って今日を祝おう。そう考えると少しのんびりしすぎた、早く合流しに行こうか」


 一方で、ミュリアは試合を見終えた後に闘技場の外でシグルドを待っていた。彼女の目の前には幼い竜が首を傾げている。

 「どうしたの、おチビちゃん?」

 そのまんまるな瞳は彼女を捕らえて離さない。

 「うーん、迷子なのかしら」

 しかし、周囲には親のように見える竜は存在しない。何処からかこっそり逃げたのかもしれない。

 そんな幼竜と戯れていると、何やら騒がしい音がこちらに向かってきたようだ。


 「ミュリアはどこに……」

 シグルドが合流場所には来たものの肝心の少女の姿が見当たらない。何処かに去ってしまったのだろうか。

 すると、騒がしい音が聞こえてきた。

 「あなたたちはこの子を所有物かのようにいうけれど、私にはあなたがこの子の主人には見えないの」

 その騒ぎの中心で一人の少女、ミュリアが背中に幼竜を隠して複数の男たちと言い争っていた。

 「あのなぁ、言いがかりはやめてくれんか、嬢ちゃん。そいつは俺らがせっかくかわいがってかわいがって……おたくにこの子に掛けた手間暇を払えるっちゅうなら構わんけども」

 「それならこの子には可愛い名前があるのよね? さあ、言ってみて。それでこの子が反応するか見てみましょう」

 言い争っていた男たちは遠くで憲兵たちの姿を見たのか視線を合わせて遠くに消えていった。

 「何かあったのかい?」

 ミュリアはすり寄ってくる幼竜の背を撫で、背後のシグルドに経緯を説明した。

 「偶然、なんだけどね。この子がここに迷い込んできて、その後にあの人たちが来た。怪しい雰囲気があったから、注目を集めて時間を稼いでいたの」

 「どこらへんが怪しいと思ったんだい?」

 「勘、って言いたいところだけど、どちらかというとこの子の雰囲気よ。あまり人馴れしてみたいだったから、こんなところに突然現れたのはおかしいと思ってね。首輪もつけてないみたいだったし」

 駆けつけた憲兵たちに事情を聴かれた後、そのまま解放されることになった。

 「今度、時間があったらあの子に会いに行きましょう。きっと寂しいだろうから」

 「そうだね。竜の主食には詳しくないけど、雑食だそうだから何か手料理でも振る舞おうかな」

 「ええ、きっと喜んでくれるわ♪」


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