弔鐘者とレクイエムを その4
ジェイスは部屋の外に出て、階段の手前で立ち止まった。
「いいか、この先に何があろうと前へと進め。足を取られたら、二度と現実に戻れない」
布が壁に張り付き、その中心が徐々に捻れて歪んでいく。そしてその捻れが最大限に達した空中に瞬間に亀裂が走り、ガラスのように砕け散った中に異界へと通じる道が開かれた。
ジェイスを先頭に、ミュリアとシグルドが続く。
その空間の中は鏡のように反射し、屈折し、その中には底の見えない深淵の暗闇だけが映し出されている。
前方には何処かへと繋がる光が見えた。
しかし、ミュリアが一歩踏み出した瞬間に通路に亀裂が走る。
「ちっ、走れ!」
通路が崩落していく。
通路の欠片は地面に落ちるとガラスのようにひび割れて砕け散る。
三人は足を取られないように必死で前へと駆け抜ける。
その崩れた背後から、無数の恐怖が同胞を迎えようと手を伸ばした。
「……っ、随分と人気者みたいね」
ミュリアは迫りくる手を生み出した結晶の光線によって払い除けたが、次から次へと湧き上がり、その数は倍に倍にと増えていく。
「僕に捕まってくれ」
「ええ、離さないで!」
その様子を見て、シグルドはミュリアを脇に抱えた。ミュリアは集中して迫りくる手を薙ぎ払う。
シグルドも速度を維持したまま、片手で切り進む。
しかし、目の前の光は徐々に小さくなっていた。
天井を崩して、巨影が三人の前に立ちふさがる。
「あいつが暴れる前にけりをつけるぞ」
「壊される前に、ね」
巨影は拳を叩きつけようと振りかぶった瞬間に、ジェイスによって身動きを布で封じられた。
その巨影に正面からシグルドは突っ込んで、炎がその巨体を貫いた。
既に光は蜘蛛の糸のように細かった。
ジェイスがその光に布を伸ばすが届かない。
「くっ」
通路の壁が崩落し、気付けば周囲には多くの巨影と影の手が迫っていた。
「無理やり壊してみるか?」
「こうなった以上、手を尽くすしかない」
ジェイスとシグルドは背中を合わせて迫りくる敵に武器を向けた。
リン、リンと鈴の音が響く。
「これは……」
気付けば地面に魔法陣が浮かび上がり、白い光が三人を包み込む。
彼らが光に呑まれた直後、無数の影が何も無い空間を押し潰した。




