弔鐘者とレクイエムを その2
避難所に戻ったあと、ミュリアたちは物資を配り回った。
それに感謝する人もいれば、手に取らずまだ蹲っている人もいる。
けれど、今までよりは生気に溢れ始めた。
ジェイスは顎に手を当てて悩んでいた。
「……」
それを背後からミュリアが顔を出した。
「何を考えているの?」
「一つ、話してないことがある」
ジェイスは水を少しずつ飲みながら俯く一人の女性に近づいた。
「もう話せそうか?」
女性はジェイスを見上げて小さく頷いた。
「はい」
その顔は寝不足や疲れによって隈が現れている。
「……その、私は学術院に指示されて研究に参加していたんです」
おどおどと少しずつ話し始める。
「詳しくは知りませんが、教団のお偉いさんも参加するような大きなプロジェクトだったようで……」
話すべきかと悩んで、ジェイスへと視線を向ける。
ジェイスは腕を組み無言で頷いた。
女性は深呼吸して少しずつ口に出した。
「その実験で、アウルバスの裏にある“異界”について調べていました」
ミュリアは首を傾げながら尋ねる。
「その、異界って?」
女性はどう話すかと悩んだ様子だった。ジェイスは女性の言葉を引き継ぐ形で割って入った。
「そうだな、妖精についてどれくらい知っている?」
「少しだけ、昼間にいくつか基礎知識を知れたから……記憶の残影ってことくらい」
「十分だ」
ジェイスは女性に続きを促した。
「妖精というのは異界から漏れ出てしまった記憶の一部なんです。この危機は異界と現実が繋がってしまう通路によって起きたんだと思います」
「どうしてそんな研究を……」
シグルドは怪しんで尋ねる。
「それは既に被害が出ていたからです。聞いた話なんですけどね。数年前から階段という形で学術院で観測されていたんじゃないかって」
女性はまるで遠い過去を懐かしむように口にした。
「その頃には大賢者もご存命でしたから……」
会話を終えて、シグルドはジェイスに話しかけることにした。
「もしかして、僕達に話さなかったのは……部外者だからかい?」
ジェイスは気にした様子もなく口にする。
「気を使う必要はない。秘密は守るべきではあるが、この事態を打開するには俺たちが協力するしかないだろう」
ジェイスは一度視線をミュリアに向ける。
「それに、彼らのために命を賭けてくれた者を信じないわけにもいかない」
長いため息のあとに、ジェイスは立ち上がった。
「本当はエリンという大賢者の孫娘に力を借りれられたら良いんだが……外出届が出されていていつ帰ってくるか分からない。とにかく、俺たちでできる限り対処するしかないだろう」
三人で交互に方針を定めることにした。
ミュリアは現状をまとめたあと、思ったよりも手詰まりの状態に眉を下げた。
「じゃあ、その入り口を閉じられれば……ジェイスはできる?」
「応急処置ならできるだろうが、今回ばかりは根本を解決しなければ数日もしない内に封印は解かれるだろう。なにせ、向こうの世界から出てこようという意思があるということだからな」
「必要なら、僕が全てを焼き尽くそう」
シグルドは剣に手を乗せた。
ジェイスは考え込んでたあとに息を吐いた。
「……それも、検討しておくべきだろうな。だが、少し待ってくれ。一応、あの異界と呼ばれる場所は記憶を保存する空間なんだ。下手に傷つけて都市のみんなに後遺症を残すような羽目になったら取り返しがつかない」




