幻想は霧を携えて その2
少年に案内された部屋は厳重に閉ざされて、霧が入ってくる様子はない。部屋の中には数人が地面に座ったり、頭を押さえて気を保とうとしていた。
「俺のことはジェイスと呼んでくれ」
手に持っていたランプを置いて、近くにあった椅子に腰を下ろした。ミュリアは顔色の悪いシグルドを座らせた。
「すまない、みっともない姿を見せた」
「仲間でしょ。こんな時くらい、私をもっと頼ってよ」
シグルドはかなり疲れたようでそのまま眠ってしまった。
そうしてジェイスの下へと行くと、彼は部屋を点検していた。
「ここは大丈夫なの?」
「おそらく」
ジェイスは短く返したが、説明を要求する視線からは逃れられなかった。ジェイスは観念したように説明を始めた。
「現実と記憶の境界が揺らぎ、本来交わるはずのない空間が混じり合った。それはアウルバスの特殊性によって顕現し、この都市そのものを飲み込んでいる。その記憶が形をなして脅威となっている」
学術院の同僚に話すように解説されて、ミュリアは首を傾げた。
「つまり?」
「はぁ……簡単にいえば、全員が幻覚を見ている。歩ける人間はここに招いたが、発狂する者や昏倒したものは無理だった。悪夢は怪物となり、まるで過去の悪夢に取り憑かれたように振り払えない」
外から言葉にもできないような不気味な音が響く。何処からかがたがたと音がして、人々は顔を恐怖に染めた。
ミュリアは動揺を振り払って、そちらへと確認した。
「みんな、安心して。ただ本が崩れただけよ」
休憩が一段落したあと、ジェイスは再びランプを手に握った。
「これからどうするの?」
「外に出て手がかりを探すしかないだろうな。他に正気のやつも保護すべきだ」
「あなたは大丈夫なの?」
「原因は何であれ、一応は霧も妖精も原理は同じだ。簡単な儀式で多少は他の人間より抵抗できるだろう」
ミュリアは深呼吸した。
「……ふぅ」
堂々と、狼狽える様子もなく言葉にした。
「私もついていくわ」
「俺はそこのやつみたいに守ってやったりはしないぞ」
ふらふらとシグルドは立とうとするが、力が入らない。
「多分だけど、私の前には現れないと思うの。記憶がないから」
「……分かった。取り敢えず試してみよう」




