過去の残響は未だ消えずに
儀式を終えたあと、ヴィネとナディアは暫く祭祀場の隅に腰を下ろしていた。その儀式を行ったエリンはというと、その後も何かしら処理が必要なのか静かに光の下で祈りを捧げている。
その様子は普段の活発な様子と打って変わって、敬虔な信者のようにも見えた。
冷たい石の感触はまるで永遠の中にいるように歳月を感じさせない。
ナディアはヴィネにどう声をかければいいか悩んでいると、ヴィネは頭の中で求められない答えを口にした。
「私はどうすればよいのでしょうか?」
その目は木々に隠れた暗闇を見つめている。その先は続いているが、果てしなく暗い闇の中で、いつ光が差してくるのかも分からない。
ナディアはそっと自分のほうにヴィネを引き寄せた。
「そんなこと、あたしにも分かんないよ」
そして遥かに高い月を見上げると、夜空に光り輝いている。けれど、その周囲に星の光は残らない。
「……分かってたら、こんな刻印が刻まれるはずない」
ため息を吐いて、ナディアは首を振った。
「フィオルナも、シグルドも、ミュリアですら自分が何をすべきか分かってる」
「……」
すぅっと、ナディアは息を吸った。
「ずっと、他の奴らを羨ましい、羨ましいって言ってきた。過去はどうやったって変えられないからね。大抵の人より劣勢なあたしは何でもしてきた。選ぶ余地なんてなかった」
地面に消えずに残った足跡だけが自分たちが歩いたことを物語る。けれど、そこに刻まれるのはいつも思い通りのものとは限らない。
「あんたはどうする? 別に否定されたからって、それを選ばない理由にはならないよ」
「私は……おそらく、過去の幻影を追い続けるでしょう──私が、私でなくなろうとも」
「だよね、そう思った。あんた、そういうとこは曲げないもんね」
ヴィネは俯いていた顔を上げてナディアと視線を合わせる。
「ナディアは、私が消えたらどう思いますか?」
ヴィネの視線に、ナディアは真っ直ぐに返した。
「悲しいよ? でも、そんなことに沈む暇もない。生きていれば、次に会えないことなんていくらでもあった。商売敵でも、常連でも、明日にはいないかもしれない。そして、いつかは誰からも忘れ去られる」
ナディアは自分の手のひらを見て、そして強く握りしめた。
「だから、そんな世界で爪痕を残す人たちが羨ましいんだ。この、どうしようもない世界で、それでも何かを残せたのなら十分に誇れることだよ」
答えの出ない問いに直面して、その答えは見つからないながらも記録した。
「……ナディアに一つだけ言いたいことがあります。良いですか?」
「言ってみれば? 減るものじゃないんだし」
ヴィネは伏せていた目を上げた。
「私は、ナディアも何かを残していると思います。少なくとも、私には」
「まあ、ありがと」
沈黙がしばらくあたりを包んでいた。




