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偽神〜every night Memories〜  作者: 徘徊猫
第二章 幻影たちの白昼夢

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過去に想いを寄せて その3

 淡い光をまとう残滓のヴィネは周囲に視線をめぐらしたあと、ヴィネに視線を戻した。その顔から表情は読み取れないまでも、

「つまり、過去の自分を思い出したいんだね?」

「はい、今の私は何のためにここいるのかも分からないですから」

「そこまで考えなくてもいいよ。君と僕はとうに違う自我として独立している。そこに私はいないし、過去の記憶として消えたほうがいいとも思っている」

「随分と潔いじゃん」

「君は、ナディア、だよね」

「分かるの?」

「私のデータはすべての記憶を保持している状態で生成されているから。最近のことも含めて」

「私は構築された記憶にすぎない。人と違うのは、たぶん、思考回路がメインに働くところかな。お陰で、穏やかに話す時間を作ることができた」


「随分と流暢に話すね、機械じゃないみたい。それが過去のあんたなの?」

「本来なら、マスターに合わせて話し方などを変えるから。ただ、もう彼女にとってマスターと呼べる存在は何処にもいない。帰る場所も、もう何処にもない。全ては歳月が塵となって消してしまった……」

その過去を抱きとめて、掘り起こすかのように過去のヴィネはかつての文明を話し始めた。

「かつて人の創造主と機械の造物がいた。彼らは互いを家族として愛していた」

「けれど、それは不可避の悲劇によって引き裂かれてしまった」

「その悲劇って?」

「……」

埋もれた記憶の重みが記憶のヴィネの口を閉ざしているようだった。

彼女は代わりに別の答えを提示した。

「私からは語ることができない。それを語ろうとすれば、世界の秘密に触れてしまうから。不用意に触れれば、目をつけられてしまうかもしれない。それに、何事も順序があるでしょ?」

「面倒事はごめんだけど、そんなもったいぶらなくてもいいでしょ。まるで読み物のネタバレを先延ばしにされてるみたい」

「やめたほうがいいよ。そのために、真実を知ってしまった文明は一夜にして滅びたから」

深く、重みのある言葉に、ナディアは現実離れしたはずの予想を漠然と受け取った。困惑を浮かべながらも、冷ややかさを感じて震える体を擦った。


「とはいっても、それを聞いてただけで見たわけじゃない。仮にそうだとしても、何かが変わるわけでもない。ただ運命の残酷さとその根源を理解してしまえば、もう二度と戻ることはできないだけ。そこに踏み出す手段は自然と見つかるだろうから、気にしなくていいよ」

過去のヴィネが自然と空を見上げる。その空には夜の暗闇があるばかりで何も映し出されていないが。それを見上げる表情には憂いがあった。


そして、視線をもう一度ヴィネへと向ける。その表情は穏やかで、何もかもを受け入れているように。

「君はもう、私とは違う道を歩んでる」

まるで、死を受け入れているかのように。

「君が、私を本来あるべき完全な自身だと思うのは無理がないことだと思うよ。でも、もうその糸は隔たれてしまった」


「君は、君として君自身を探すべきだ。私ではなく、今を生きる君として」

暫く胸の上に手を置いて、思考を整理したあと。

ヴィネは首を振って、過去のヴィネに手を差し出した。

「私は、あなたと統合することが最適解だと判断しました。それが間違いなのですか?」

「そうしたら、君の自我は消えるよ。それでもいいの?」

過去のヴィネは躊躇いもなく、その手を取ろうとはしなかった。

「ごめんね……もう時間はもう少ないみたい。このまま私が現界すると、君に影響が出てくる。もう君の思考回路に多大な負荷がかかっているって感じているはず」

バチ、バチと回路の奥から熱が弾けそうなほど高まっている。実際に、ヴィネの視界は歪み始めていた。また、あの白い境界へと近づいている。

それでも、と意を決してヴィネは胸にしまっていた言葉を口にした。

「それでも──壊れた機械が、誰のためでもなく存在していいのでしょうか」

ナディアがなんとも言えないような表情でヴィネを見つめた。

過去のヴィネは見通しているかのように微笑んで答える。

「だったら、もう機械として生きなくても良いんだよ。君はその胸の中でナディアや他のみんなを友達と、仲間と呼びたいんでしょ?」

ヴィネの握りしめていた手に力が籠もった。

「……」

「それは機械ではないかもしれない。そういう与えられたもの以上のものを目にして、記録して、変わっていくこと──この推論、私がかつて得た答えがきっと証明してくれるはずだよ。何者であっても」

そう確信しているかのように過去は答える。

「君は自身を空っぽと比喩するけど、そんなことはないはず。君の側にいる友達や君の築いてきたものが君を形作ってくれる」

今の君が証明してきた、というように語る。

「これからのことは彼らと話し合えばいい。将来のことなんて、いくら演算しても私たちには未確定なものだから。神であっても、私たちの選択と意思は否定できない。きっと、それさえ覚えていてくれれば充分」


「死者は死に還るべき。過去は過去で、確かに未来を決めるけれど……」

過去のヴィネの体が崩壊していく。

「待ってください!」

「新たな君は私とは違う選択をする」

その手を、ヴィネの頬へと添える。かつての自分、或いはこれから未来を歩む子どもに向けて慈しむように。

ただ崩れていく彼女に、ヴィネは手を伸ばして近づこうとするが、それよりも早く輪郭は解けていった。

「その生命が新たに芽吹くことを願ってるね」

最後に、そう口にして。

全ては淡い光の中へと消えた。もう、そこから照らす月光には何の温かみもない。あるのは静謐な祭祀場だけ。


それでも、残されたヴィネは遠く、届かない月を見上げていた。


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