黄金と剣と鮮血
太陽は燦々と降り注ぎ、その眩さが街を覆っている。重厚な石造りの建築と賑やかな港、何よりも都市の中心で山のような存在感を放つ王城は他の国でも中々見られないものだ。
「壮観だね。一体どれくらいの時間と人をかけてこの年を築き上げたんだろう」
二人で道の真ん中で呆然としていると通りすがりの人から笑い声が聞こえてきた。
「おっと、ここで話していても仕方ないね。ミュリアはこの後どうするつもりなんだい?」
「特に決めているわけじゃないから、あなたの用事をまずは済ませてからにしましょう」
石畳の敷かれた大通りには多くの人々が行き交っている。特に目を引くのは、馬の代わりに荷車を引く図体のでかい存在だろう。
「あれが竜なのね、想像していたよりも可愛いわ♪」
「そうかい? 僕は思ったより逞しいと思ったな。叶うとは思ってないけど、あの子が引いている荷車は僕でも引けるだろうか……」
「それならあなたのことを荷車竜って呼ぶことにするわね」
竜の方はシグルドの自然に気にした様子もなく、御者から食べ物を与えられたり撫でられたりしていた。
闘技場は受付から熱気に包まれていた。その中には屈強な戦士や異国の騎士、武の道を歩む人々と忙しそうに駆け回る商人がいた。そんな時折殺気すらも放たれる場所で一人の少女が場違いにも周囲をきょろきょろと見回していれば特に目立つ。
「何か気になるものでもあるのかい?」
「よく考えてみたらこういう場所に来たことないから不思議に思っただけよ。よく見れば内装も凝っているし、かなり力を入れているのね」
「それはこのスラファトという国は軍事に力を入れているからね。あるいは信仰ともいえるかもしれない。この国では教団とは違う思想が広められているんだ。戦士は栄誉の中で永遠に忘れられないというね。血で耕された国だからこそ、歴史に刻まれた紅い文字に敬意を払う。なんでも王城にはこれまで優勝してきた数々の戦士たちの名前が記録された石碑があるらしいよ。それくらい、この国では力というものが尊ばれているんだ。もちろん、これは闘技場のルールに則ったものであって、無法の暴力は話にならないんだけど」
どうやら受付がシグルドの番となり、受付が待つ間ミュリアは室内にある立て掛けられた絵画などから闘技場の歴史を見ていた。すると、何処からか一人の少女が現れて、ミュリアに声をかけた。
「はぁ、何処かしこも脳に筋肉が詰まったやつばっか……嫌になっちゃうよ。ねえ、あんたもそう思わない?」
「ここにいる人たちはみんな力を求めてきたんだから、それも仕方がないんじゃないかしら。それより、あなたは?」
「あたし? あたしはただの通りすがりの商人だよ。本当はここで名前を売って、うちの店を贔屓にしてくれればいいなって思ったんだけど……やれ、卑怯者だの悪辣だの冗談じゃないっての。勝てばいいなら、勝てばいいじゃん。騎士道精神? そんなの戦場に出れば無意味だって分かるでしょ。それに、本当に勝ちたいなら手段を選ぶべきじゃない。違う?」
「彼らにとって勝つということは勝負に勝つという意味だけでなく、証明という意味もあるからじゃないかしら。ほら、あなたの理屈だと毒や工作が多くなって勝負が成り立たない可能性もあるから。そのためにルールがあって、力や技術を見せつけるという機会が生まれる。そういうことを誇りにしている人にとってはあなたの提案は受け入れ難いのでしょうね」
「へえ……あんた、あたしの良い顧客になってくれそうだ。っても、あんたの相棒にあたしの手は必要なさそうだけどな。かなり強いでしょ、あれ」
遠くから見ると身なりの良い好青年にしか見えないが、何人がかりでも動かせなかった馬車を動かせる力は中々ないものだ。
「ふふ、頼りになる用心棒ってとこかしら」
「まあ何でもいいけどさ。うちの力を借りたくなったら値段相応の力をお貸しするよ。あたしのことはナディアって呼んでね、んじゃ失礼するよ」
ナディアは別れの言葉とともに何処かへと消えていった。
「まるで猫みたいね」
神出鬼没な商人との出会いが終わると、丁度シグルドが戻ってきた。
「何かいいことでもあったのかい?」
「あら、早速ばれちゃった。私ってそんなに分かりやすいのかしら」
「いや、偶然だよ。君ってかなり掴みどころがないというか。もしかして武器を持ったら意外と強かったりして、なんてね」
「誰もがあなたみたいに身体に見合わない力を持っているわけじゃないのよ。もう、そうやって競おうとするのは男の子だからかしら」
「誰だって自らの力を証明したいと思うだろう。旅の中で鍛えてきたんだ、その力を振るう機会があるんだから折角なら臨まないとね」
「まあいいわ、それより大会まで時間もあるでしょう? それまで何をして過ごしましょうか」
「受付で聞いたんだけど、ここでは海鮮料理が有名らしいんだ。前回の件もあるし、ここは僕に奢らせてほしい」
「いいわね、じゃあ行きましょう」
二人のスラファトでの一歩はこうして始まった。




