燃ゆる炎に焚べられて
視点:シグルド
未明に目を開き、ベッドに立てかけた剣を持って外へと出る。鍛錬場への道は昼の賑やかさが嘘のように静まり返っている。隅では猫が欠伸をして、また丸まっていた。
周囲はあっという間に変わっていくというのに、僕は未だにただ旅を続けているだけだ。ある意味において変化のない旅を退屈だとは思わない。けれど、誰かを救えるのならと進み始めた旅が結局は僕がいるために引き起こされているというのなら、怪物はどちらなのだろうか。それでも、この旅は完遂しなければならない。それは刻印という呪いと自分自身の命以外を差し出すことのできない僕の無力さなのだろう。
どうすればもっと強くなれる?
どうすれば僕の命を最大限利用できる?
剣を振るたびにそんなことばかりを考えている。決して美しいものではないし、誰からか認められることで納得できるものでもない。
おそらく納得できていたのなら、この旅も刻印もすべてを始めなどしなかったのだろう。
しかし、理解している。それを考えたところで意味がないと。僕が向き合わなければいけないものは、そんな大げさなものではない。それらは上辺のもので、僕自身はどこまでも利己的だ。
誰かを助けるのもただ証明したいから。その道でいくら血を流そうとも構わない。それだけで突き動く衝動にも意味が生まれるから。
冷徹な王ですら感情があり、気ままな商人ですら矜持がある。けれど、僕にあるのは、本質は多くの人が先へと進めるように障害を切り開くことだ。そこに喜びもなければ悲しみもない。なら、僕は何を大事にできるというのだろう。
まだ夜はあけない。明かりのない暗闇で見つけられるものは何もない。けれど、視線は何処までも遠くの海の水平線、その彼方を探していた。
僕は目の前に立つ敵を想像して剣を構える。血液が炎のように燃え上がり、瞳は幻視した敵を強く射抜く。
それはどこまでも痛烈な嫌悪であり、憎しみだ。かつて平和な村を壊した怪物を倒したときと同じように、僕は未だにあの怪物と戦っている。終わりのない戦いだ。相手はただ悪意もなく僕の家族を、友人を、全てを呑み込んでしまったのだから。そして打ち倒してもなお、その戦いで浴びた血の跡が頭からこべりついて振り払えない。人の心を理解できないものが、どうして人の心を守ることができるのだろう。牙や鋭い爪がなくとも、僕には破壊する力だけがある。
僕も怪物になってしまったのだろうか?
怒りは途絶えることなく湧き上がる。己の無力に、どうしようもない刻印の宿命に。怒りに任せて振った斬撃は空を切る。手応えなどありはしない。近くにある枝が揺れて、木の葉が数枚落ちただけ。乱れた呼吸を整える。
他の道も考えたことはある。剣を捨てて再び鍬を持とうともした。けれど、この手に染み付いた匂いは消えない。
結局は、それ以外に価値など見いだせない。結局は、まだ僕は誰かに必要とされていたいから、人でありたいから英雄の道を歩んだのだろう。それが無意識であれ、かつて野原で少年が棒を片手に憧れたのと同じように。
そして夜明けがやって来る。きっと、あの明るい少女は今日も楽しそうにするのだろう。なら、少なくとも僕はそれを守らなければならない。
「ふふっ、たまには一緒に食事を並べて朝食でもどう?」
ふらっと現れては何処かに去っていく彼女に手を引かれて、朝の日差しの中へと連れて行かれた。




