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偽神〜every night Memories〜  作者: 徘徊猫
幕間(第一章)

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20/77

わがまま王女と朴念仁 with ミュリア

 その日の朝もいつも通りフィオルナは執務室へと向かった。ただし、いつもと同じだったのはそこまで。

 「ミュリア……一体何をしている?」

 「私は何もしてないわ。すこーしだけ、あなたの部下を借りただけ。今日は貴方に休暇届を出してあげたの」

 「それを採決するのは私のはずだが……私の判子を持ち出したのか?」

 ミュリアは普段通り微笑んで部屋から出した。

 「誰にだって休暇は必要よ。特に、あなたの場合は自分の国がどう変わったのか見てくる方が良いでしょう」

 「仮にも国王を一人で行かせるのか?」

 「私は忙しいし、あ! 丁度いいところに将軍が来てくれたわ」

 そんな都合良く現れたクレイトスは先の戦いでの負傷は完治していない様子ではあるが、いつもの威厳は少しも損なわれていない。

 「俺は老兵みたいなものだ。休日を楽しもうとする御仁くらいには付き合わないとな」

 「お前、診断書によるとまだベッドで寝かしつけられているはずだが」

 「そんなものを聞くはずがないだろう。死に片足を突っ込んでいるのなら、むしろ戦場にいた頃の懐かしい気分だ」

 「おい、早くこいつを休ませろ」

 「まあまあ、将軍もちょっと血が足りなくて良い感じに高揚してるからって、そんな冗談を言わないの。ほら、城の前に場所を用意したから行ってきて」

 「おい、何を──」

 普段のフィオルナと異なり、クレイトスに片手で担がれていく珍しい光景にミュリアは満足していた。


 品質としては悪くないが、王族が乗るには少し物足りない馬車が道を進む。その光景を馬車の窓からフィオルナは眺めていた。幸いにも、道端の人々がこちらに気づいている様子はない。

 「それで、これは一体どんな騒ぎなんだ?」

 フィオルナは対面に座るレテラを見た。服装は簡素なもので、彼女自身も着たことは一度もないかもしれない。

 「私に聞かないでよ。あんな事があって、私も合わせる顔がないのに」

 膝のあたりで裾を強く握るレテラからフィオルナは視線を違う方に向けた。

 「なるほどな、確かに根を詰めすぎていたらしい。こんなことも起きるとは思わなかった。それがいいかは別だが。それで、どう動くか予定は決まっているんだろう。見せてくれ」

 レテラはやり過ごそうとしたが、フィオルナの視線から逃げられず仕方なくこれからの予定を見せた。

 「ふむ、これらの予定を一日で……できなくはないが、楽しめるのか?」

 「それは大丈夫だって聞いたわ」

 その自信はどこから来るのかとフィオルナは考えたが、すぐに振り払った。どちらにせよ、今は王冠もないのだから。


 クレイトスは“昏冥”の刻印の力で影から二人を守護しながら、大衆と同じように観客席で演劇を見る二人を見守っていた。

 (……王族でなかったら、フィオルナが血の繋がった姉であったなら、そんなことを考えても仕方がないが、どうにも考えてしまうな)

 「多くの人はこんな近くで迫力のあるものを見てるのね」

 「ああ、確かにお前がいつも見ている席からではよく見えないな」

 「言わないでよ。劇場の装飾くらいしかまともに見れないの、やっぱり私が末の娘だから?」

 「どうだかな。ともかく、劇場の設計は変えておくべきだな。実用性が足りない。建築家を呼んでおくか」

 「だったら、闘技場の席ももう少し見やすくしてほしいわ。たまに柱に隠れて見えないの」

 「……そもそもあの席はお前くらいの身長の者が座ることを前提としてないからな。席を底上げしてもらえ」

 「ま、まだ成長期よ! 姉様なんてすぐに追い抜くんだから」

 そんな姉妹の会話を見ながら、クレイトスは少しだけ考えを改めた。

 (だが、この出会いは決して悪いものではなかった。そうだろう、ファラオス)


 一方で、ミュリアはフィオルナの業務を肩代わりしていた。とはいっても、フィオルナの判断が必要なものは溜まったままだが。

 「随分と思い切ったことをしたね」

 シグルドが新しい書類を運んできた。

 「何もできないなんて嫌でしょ? 別に彼女たちの問題を解決できなくても構わないの。ただ、少しでも一緒にいることができるなら、また交わることだってある。王の道は孤高なもので、多くの人たちが少しずつ消えていく別れの道かもしれない。けれど、それはきっと失うだけのものではない。ほんの少しの出会いかもしれないけれど、そういったものを積み重ねていくの。そうやって特別でない私たちでも日常を編んでいるのよ。今度こそって自分に期待してね♪」


 少し前、シグルドとフィオルナが共に同じく孤高の道を歩むように、問題をただ見ていることしかできなかったミュリアとレテラは誰も来ない場所で同じ痛みを共有した。

 「家族ってどんなものか。私には実感が湧かないけれど、身近な人が傷ついていく中で見ているだけの無力さを知っている。だから、あなたはあなたのやったことを責めないで」

 「……私、どうしたらよかったの?」

 「分からないわ。でも、きっと考え続けるの。その背中を追いかけるのではなく、私たちにできることを。あなたはその一歩を勇気を持って進んだ。なら、今度はあたしの番ね」


 「それで随分と大胆なことをするね」

 「これは私だけの力じゃないわ。少なくとも、私以外にもフィオルナのことを想ってくれる人たちがいてくれている。彼女の進む道は一人だけでも、彼女に助けられた人たちはその恩を感じてくれている。それが独善的であっても、助けられた人は確かにいるの」

 「まあ、その一番にはあの妹ちゃんがいるんだろうけどねっ。あたしを使って国を揺るがしたんだ。ふふっ、あたしにいい武勇伝が一つ追加されちゃった」

 ナディアは書類作業に埋もれたミュリアの背後から愉快そうに顔を出した。

 「お代は……ふふ、今回は面白いものが見れたからチャラにしてあげるよ!」


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