わがまま王女と朴念仁 その1
視点:ミュリア
昼下がり、私はフィオルナの執務室で書類の処理をサポートしていた。とはいえ、フィオルナが自身で全ての書類を処理して、私はそれを仕分ける程度なんだけど。
そんな日に、いきなり扉からどんどんと雑に叩く音が聞こえた。
「……あいつか」
珍しくフィオルナは顔をしかめていた。
「どうするの?」
「はあ、構わない。入れ」
そうすると、先ほどのノックとは打って変わってまだあどけなさの残る少女が部屋に入ってきた。その佇まいは気品があって、ここに来れることから見てもそういう出身なのだろうと分かる。
「レテラ、あまり不用意に私の下へと来るなと言ったはずだ」
「お義姉様が用意してくれた箱庭は楽しくはあるけど、だからといって退屈しないわけじゃないのよ。別に遊んでほしいってわけじゃないわ。ただ書斎に籠もっているばっかりで構ってくれないのは寂しい」
顔を膨らませて訴える様子は本当に年相応の子どもらしい。
「今は駄目だ……それなら、他の遊び相手を探してこい」
「遊び相手ってそんな簡単に──」
二人の視線はちょうどいいところに、と私を見つめていた。
そんな事件が起きてしばらくの間、私はレテラの相手をすることになった。とはいっても、彼女の興味は常に闘技場へと向いていた。
「私は最初から玉座に座るなんて可能性はなかったの。だから、兄様やフィオルナお義姉様と違ってあんまり注目されてない。お陰で闘技場で試合を見学してても問題ないってわけ」
「それなら──」
ということで、シグルドを呼んできた。
「あなたのことは色々と聞いてるわ。私は前国王の末娘にして、フィオルナ女王の妹のレテラよ。お会い出来て光栄だわ」
彼女は私の前で見せたことのない礼をした。
「私と扱い違くない?」
「だって、あなたは一応使用人でしょ? 姉様が側に置いてるし、別にそこまで気を張る必要なさそうなんだもの。剣も振れなさそうだし」
「一番最後が主な理由よね」
私の不満も一蹴されて、レテラは興奮を隠さずにシグルドを椅子に座らせた。
「私の淹れたお茶を飲めるなんて、シグルドは幸運ね」
「そうだね。こうやってお茶会に誘われるのは初めてだし、色々と楽しませてもらうよ」
「ミュリア、客人を楽しませるのは当然のことよ。まあ、あなたの本職は別にあるのだし細かく言わなくてもいいけど。あと、あなたの腕前じゃなくて、茶葉の質。美味いのは認めるけど、それは私の茶葉があってこそなんだから!」
そんな感じで始まったお茶会には様々なお菓子が並べられていた。どれも趣向が凝らしてあって、見た目も美しい。味はもちろん美味しい。
「ほんと、あなたって遠慮がないわね」
「僕は構わないよ、こんなに食べられないから。それに、やっぱり美味しそうに食べてこそ、このお菓子も満足だろう」
「ほら、こう言ってくれてるでしょ?」
「明らかに形式上の言葉でしょう」
そんなふうに進めていたから、話題が私を中心に回ってしまって本来の趣旨よりも逸れてしまった。
「流石に、私も中心にいて申し訳なくなってきたから、少し席を外すわね」
「あれで気まずさを感じないなら、一度使用人の作法についてみっちりと教えてやるところよ」




