灰燼に向かう烈火
「すまない、遅くなった!」
シグルドとナディアが玉座の間に来るとその光景に唖然とした。
ミュリアは満身創痍のクレイトスの前に立ち、透明なクリスタルで黄金の根を防いでいる。そしてフィオルナは身体をふらふらとさせながらただ手に持つナイフだけを玉座から伸びる黄金の巨木に向けていた。
そしてその訪れを待ち構えていたように道化は一礼した。
「やっと来ましたね。英雄殿」
「お前は……今はいい、これはどういう状況だ?」
「ごめんね、あなたが来る前にもう少し何とかするつもりだったんだけど」
「ここにいる者たちは、あなたがあの黄金の傀儡たちを助けるまで必死に戦っていました。なんと素晴らしい成果でしょうか、ここに至るまで被害者は一人もいません」
道化の平然とした顔の横に小石が投げ飛ばされる。その後ろの壁には大きな穴があいていた。
「黙ってくれ。ミュリア、あの黄金の巨木を倒せばいいのか?」
「ええ、そうだけど……一人でやるつもりなの?」
シグルドは頷くと、フィオルナより前へと進んだ。
「ここは僕に任せてくれ、こういう時こそ英雄の出番なんだろう。どちらにしろ、この怪物を倒さなければならないのなら僕が引き受ける。だから、君たちはできる限り下がってくれ」
ミュリアが何かを思うよりも早くナディアがクレイトスの肩を支えて立ち上がる。
「今は早くここを離れよう。あたしらにできることなんてないんだし、巻き込まれたら元も子もないでしょ!」
視界から消えていくミュリアたちを視界に捉えながら、シグルドは襲いかかる黄金の根を切り飛ばした。その瞬間から根は何事もなかったかのように再生している。
「君も、ここから引いてくれ」
「……簡単に、言うな。私はこの国を背負う者だ。そのために引いたりはせん。くっ……だがここは貴殿に託そう。化け物狩りは私の領分ではないからな」
ふらふらとした足取りでフィオルナも離れていく。この場にいるのは英雄と道化のみ。
「ああ、私のことはお構いなく。貴方が全力を出したとしても身を守る術を持っているので」
「お前の心配なんかしていない」
シグルドは己の手に巻かれた包帯を取り、刻印を曝け出した。
その瞬間、全てを焼き尽くそうとするような激しさの熱波が部屋を包み込んだ。
「さあ、神よ見てください。英雄が間もなくこの国を救います」
その姿はミュリアにも、或いは今まで出会ってきた人にすら見せようとしなかった姿。燃え盛る炎の中でただ一人、その中で冷徹な殺意の視線を敵に向けた。
そして剣に込めた炎を玉座に向けて放つ。篝火のように激しく、夜空すらも届く火柱を上げて怨恨も因縁も全てを焼き尽くす。
(いつになったら僕の旅は……英雄の役割は終わるのだろうか)
英雄は常に物語の終盤で終わりを与える。そして人々を日常へと帰していく。けれど、英雄は旅を終えるまで立ち止まることは許されない。
誰かが許さないのではない。己が許さない。
(それでも……構わないさ。どうせ、どこにも行くことができないのなら、世界に轟く火柱を上げ、全てを焼き尽くそう──灰になるまで)




