悲劇の中で苛烈な炎を
「来たか、クレイトス」
男はあらゆる富の権威たる玉座に座し、こちらに近づく黒い服に身を纏う戦士を迎えた。
「弁明も謝罪も聞くつもりはない。悪業に手を染め、野心のままに国を黄金に染め上げるつもりなら王国の盾である俺がお前の野望に終止符を打つ」
「悪行か……前国王も不義のために打倒された。考えてみたことはあるか? 先代も、先々代も、その前も黄金の刻印は次代の王に継承されてきた。その方法は王の血で染まること……この因縁はスラファトが建国されてからずっと呪いのように同じ命運を辿ってきた。果たして俺達の抗争に何の意味があったのか……」
「それがお前の理由か? だとしても、俺たちは同じように選択したはずだ。現状を変えるために」
「ああ、その通りだ。選択の余地などない。この結末も、俺たちが共に戦ったときから決まっていたのだ。この刻印は逃れられない運命であり、俺たちの意思でもある。なら、どうすればこの悲劇から救われるのか、方法は一つしかない」
国王が自らの目の前で手のひらを強く握り締めると、クレイトスの周囲に黄金の膜が張られる。それを凍える冷気が粉々に打ち砕いた。
「「お前が俺より正しいと証明してみせろ」」
二人の声が重なり合い、激突する。
一方では、ミュリアとフィオルナが王城を駆け回って国王の力の源の接続を断っていると、黄金の濁流がこちらに迫ってきていた。
「こうも妨害されては埒が明かないな」
フィオルナは自らの血を触媒として生み出した結晶の壁を生成するが、その勢いを止められるものではない。
二人はなんとか上層へと繋がる階段に逃げることでやり過ごした。しかし、三手に分かれてから何度も妨害に遭い、目的の方陣の無力化は一向に進まない。
「私たちが何とかしないと、国王は倒せないのよね?」
「そうだ。王城にいる限り、やつは首を切ろうが心臓を貫こうが金継ぎして動き続けるだろう。金が枯れるまでな……その生贄は戦士や人より生命力の強い命だったわけだが、その中の一部になるなど考えるだけでも御免だ」
「はぁ~、死ぬかと思ったよ」
ナディアは金の鎧の中に身を潜めながら、追っ手をやり過ごしていた。
「もう絶対こんなことに関わったりしない。うん、そうしよう」
刻印の力で逃げ切ったナディアは迷子になりそうなほど複雑な王城の廊下を歩いていた。
「にしても、あいつらどこにいるんだろ。助かってるなら、そろそろ騒動が起きてもいいはずなのに静かだな〜」
すると、突然の爆発がナディアを襲った。
「なっ、何が起きたの?」
煙の中から一人の青年が顔を出した。
「……今の声は」
「ちょっと、恩人に何してくれるわけ? し、心臓が止まるかと思った」
剣をしまって、シグルドは尻もちをついたナディアを起き上がらせる。
「つか、あんた何やってんの? 壁を壊してるなんて……」
「この方が最短で見つかると思って試してみたんだ」
「うわ、人間やめてない? とりあえず、無事でよかったよ。あたしが命を助けてやったんだから、報酬は倍、その倍でもらわないと割に合わないからね!」




