戦士よ、黄金に囚われた闘志を解き放て
黄金の巨木が輝く地下の隅でフィオルナはミュリアを観察したが、華やかなドレスはあまり汚れていないがその服で戦闘ができるようには見えない。
「お前は私のことばかり聞くが、お前はどうなのだ。その様子だと戦う力もないのだろう? それなのに、危険を承知でここに来たのか」
ミュリアは戸惑うことなく答える。
「だって、いつまでも守られてばかりいるのは平等じゃない。そんなの相棒として失格でしょ?」
「ふむ、もし私がお前に戦う力を与えられるといったらどうする?」
「そうね、きっと私は受け取ると思うわ。戦いでいつも置いてけぼりだなんて寂しいもの」
迷いなどないのだろう。この混乱した状況でただ後ろで見ているつもりはない。なぜなら、彼女も大事なものを守るためには抗う必要があると知っているから。
「なら、お前に力をやろう。一時的に私の臣下としてこの危機を打破せよ。特別に、お前には司祭の役を与えてやる」
フィオルナは自らの腕をナイフで切り、その血で空中に紋章を描く。
「それが王の刻印の力なの?」
「仕組みとしては神と変わらんだろう。ただ私の一方的な承認でお前の潜在能力を具現化させる程度が限界だが、お前ほど意志が強ければ十全と使いこなせるだろう」
ミュリアが手のひらをかざすと透明なクリスタルが現れる。指を動かすとその指示通りにくるくると円軌道をした。そのクリスタルに力を込めると、その中心に光が収束して光線が放たれた。
「ありがとう、これでみんなを支援するわね」
「流石にこれ以上はのんびりとしていられない、さっさと王城を駆け登るぞ」
四人は王城の最下層から上層部にかけて兵士を倒しながら、城に張り巡らされた方陣を奪う。この陣取りゲームでは味方は四人と少ないが、その機動力から奇襲という形と二人の戦士による圧倒的な力量で封殺した。
「ナディアは無事かしら」
今も逃走劇を繰り広げているであろう少女の身を案じながら、この広く入り組んだ城内を駆け抜けた。
上への階段を登る直前に黄金の液体が上から滝のように落ちてきた。
その瞬間、黒い何かが黄金を遮った。
「ちっ、流石に好き勝手させることはないか」
クレイトスが剣を抜いて迫ってきた黄金の甲冑を吹き飛ばした。その中身は見えないが、歴戦の勇士のようにも見える。
「あれが黄金の恐ろしいところだ。あいつが国を統べてから、歴代の優勝者はあいつの黄金に呑まれた……不滅の身体をまとった黄金の軍勢、それは“ヤドリギ”と呼ばれる特別な媒介によって他者の刻印すらも支配下に置くといった強力なもの。既にあの戦士の自我というものは残っていないだろうが」
上階から鎧が動く音が幾つも聞こえる。
「ここからは三手に分かれるぞ。クレイトスとシグルドは敵を引きつけつつ玉座を目指せ。私とミュリアは引き続き、奴の黄金の巨木との接続を断ち切る」
シグルドは迫りくる黄金鎧たちを相手にしながら、黄金に染められた末路を見ていた。
そこには大会の時のような気迫や殺意すらも感じない。操り人形のように国王の野望だけが宿っているのだ。彼らは哀れな被害者かもしれないし、永遠を求めた求道者だったのかもしれない。どちらにせよ、この姿を見ればまやかしに踊らされた被害者なのだろう。
(けれど、僕も黄金に染められたとして……何かを失わずに済むのなら、それは勝利よりも甘美なのだろう。それなら、二度と悲しい思いなどせずに済むのだから)
けれど、その意志は黄金に塗り固められるのだろう。その目には輝くものしか残らないのだろう。だから、操り人形だとしても残された自意識だけは認められるのだ。
(けれど、それは夢のように現実を覆い隠すものに過ぎない。結局、僕たちは心に穴があるようなものなんだろう。現状に満足できるはずもない……なぜなら、それが奪われることを知っているから)
決して受け入れることなどできるはずもない。過去は常に心の奥で刻まれているのだから。
(僕たちは何かの願いのために旅に出た。それが神の定めた運命であれ、結果として幸福を手放すことになろうとも満たされることはない。だから、君たちの残骸を弔おう)
フィオルナは彼らに自我はないといった。しかし、ならばなぜあの刻印は今でもそこにあるのだろうか。
シグルドは一撃で敵を屠った。ここは自らの享受すべき終点ではないと決意して。




