満月の夜に
ChatGPTと雑談してたら出来た話
ちょっとの手直しでここまで書けるってすげー
第一章:不思議な夜
ふと夜空を見上げたのは、遅くまで残業をして、ようやく駅へ向かう帰り道だった。
疲れてうつむきがちな足取りを止めたのは、視界の端でふわりと光った丸い月だった。
「満月かな」
スマホで調べると、思った通り今日は満月。
ただそれだけのことなのに、なぜか胸の奥が静かに温かくなる。
その時だった。
誰もいないと思っていた公園のベンチに、白いワンピースを着た女の子が座っているのが見えた。
月明かりに照らされて、輪郭がぼんやりと柔らかく光っている。
その姿には、どこか現実味がなかった。
気づけば、足がそちらに向かっていた。
近づいても、彼女は動かない。
ただ、静かにこちらを見つめていた。
「……こんばんは」
気まずさを隠すように声をかけると、彼女は微笑んで、小さくうなずいた。
「ねえ」
唐突に、彼女が口を開いた。
「お願いがあるの。ひとつだけ、叶えてくれない?」
「え……?」
戸惑う僕に、彼女はまっすぐな目を向けた。
その瞳は、まるで空に浮かぶ満月のように、まんまるだった。
「今夜だけ、私と一緒に歩いてくれない?」
それが、この不思議な一夜の始まりだった。
☆
第二章:ひとときの散歩
僕は彼女の言葉に頷いた。
特に理由があったわけじゃない。
ただ——
彼女の瞳に浮かぶ「誰かを待っていた」ような寂しさが、なぜか胸の奥に刺さった。
彼女はゆっくり立ち上がると、白い靴を月のしずくで濡らしながら、公園の小道を歩きはじめた。
僕はその隣を、少し距離を空けてついていった。
「名前、聞いてもいい?」
僕がそう尋ねると、彼女は小さく首を横に振った。
「今夜だけのことだから……名前はいらないの」
そう言って、ふわりと笑う。
「じゃあ、僕の名前は?」
「それも、知らなくていい」
「なんだか不公平だな」
「でも、そういうものなの」
彼女との会話は短く、途切れがちだったけれど、なぜか心地よかった。
誰かと話しているというより、静かな音楽を聴いているような感じ。
「こうして歩くの、何年ぶりだろう……」
ぽつりと、彼女がつぶやいた。
「時間が止まってたみたいに、ずっと、ここにいたの」
「ここって、公園に?」
彼女は答えなかった。
代わりに、月を見上げて言った。
「今夜の月はね、人の願いを一度だけ拾ってくれるの。でも、拾うだけ。叶うとは限らないのよ」
「じゃあ、君の願いは?」
「……歩くこと。誰かと。ほんの少しでもいいから」
それがどれだけの時間叶わなかった願いなのか。
言葉にされなくても、なんとなく分かってしまった。
僕たちは、満月の下を静かに歩き続けた。
風の音、木々のざわめき、遠くの踏切の音。
すべてが、夢の中みたいに遠くて、やさしい。
やがて、彼女が立ち止まった。
公園の出口。
もうすぐ、夜が終わる。
「ありがとう」
そう言って彼女は、深く頭を下げた。
「また会える?」と尋ねかけた瞬間、月が雲に隠れた。
そして——
彼女の姿も、夜の中にふわりと溶けていった。
残されたのは、わずかに揺れる草の音と、胸の奥に残る、確かなぬくもりだけ。
☆
第三章:欠けてゆく月の下で
翌朝、目覚めたときには昨夜の出来事が夢だったような気がした。
白い服の少女も、月の下の散歩も、月が雲に隠れた瞬間に全部、遠くに流れていったような。
けれど、ポケットの中に指を入れて、僕は立ち止まった。
そこに入っていたのは、小さな白い花。
どこかで見たことがあるような、けれど名前も知らない花。
昨夜、彼女がベンチに置いていたものだった。
「夢じゃ……なかったんだ」
その日から、何かが少しだけ変わった。
例えば、通勤途中の公園のベンチに、白い花がよく落ちているようになった。
風もないのに、花びらが空から舞ってきたりする。
スマホの月齢カレンダーが、なぜか一日ずれていたこともあった。
職場の同僚に話しても笑われるだけで、結局、心にしまっておくしかなかったけれど──
僕は確信していた。
あの夜から、世界がほんの少し、音を変えたのだと。
それから何度か、満月の夜が巡ってきた。
そのたびに、僕は同じ公園のベンチに立ち寄った。
だけど、あの少女に再び会えることはなかった。
ある晩、ふと彼女が話していた「願い」のことを思い出した。
「今夜の月はね、人の願いを一度だけ拾ってくれるの。でも、拾うだけ。叶うとは限らないのよ」
じゃあ、あれは——
拾われただけで、まだ叶っていなかったのかもしれない。
僕の願いは、なんだったんだろう。
あのとき、ただ「また会いたい」と思った。
それが願いだったなら——
満月は、それを覚えていてくれているだろうか。
月の満ち欠けを毎晩確認するようになったのは、そのころからだ。
そして気づいた。
次の満月が、ある特別な日と重なっていることに。
彼女と出会ってから、ちょうど一年。
また、あの夜が巡ってくる。
☆
第四章:月が満ちる夜、ふたたび
一年後。
その日も仕事帰り、僕は同じ道を歩いていた。
公園へ続く坂道は変わらず静かで、見上げれば、雲ひとつない夜空にまんまるの月が浮かんでいた。
あの夜と同じだ。
風の匂いも、虫の音も、そしてこの胸のざわめきも。
──今日、会える気がする。
根拠なんてない。
ただ、心のどこかが確信していた。
足が自然と、公園の奥のベンチへ向かう。
そして、そこにいた。
白い服の少女が、まるで一年という時間がなかったかのように、変わらぬ姿で、静かに座っていた。
僕の心臓が、大きく鳴った。
「……また、会えたね」
そう声をかけると、彼女はゆっくりと顔を上げ、微笑んだ。
「うん。やっと、会えた」
その声は、どこか寂しげで、でも確かに嬉しそうだった。
僕は隣に座り、問いたかったすべてをぶつけた。
「君は……いったい何者なんだ? どうして満月の夜だけ、ここにいるの?」
彼女はしばらく黙っていた。
そして、ぽつりと語り始めた。
「私はね、この公園で命を落としたの。十年前の満月の夜。でも、その夜にひとつだけ願いを残してしまったの。『誰かともう一度、歩きたい』って」
「……」
「でも、それはすぐには叶わなかった。忘れ去られて、風に流されて、時間に埋もれて……。でもね、月だけは、それを拾っていてくれたの。十年越しに、やっとあなたに届いたの」
彼女の瞳が揺れる。
でも、そこには恐れも悲しみもなかった。
「あなたは、『叶えてくれた人』。そして、願いを『拾われた人』。だから私は、もうじき消える」
「消える……?」
「満月が願いを拾うのは、一度だけ。私の願いはもう叶ったから、次はあなたの願いが叶う番」
僕は言葉を失った。
この一年、彼女にまた会えることだけを願っていた。
でも、その願いが叶うことは、彼女の終わりを意味していたのだ。
「……どうして、そんなことを笑って言えるんだ」
「だって……」
彼女はそっと僕の手を取った。
「私は、もう一度生きて『歩けた』もの。あの夜、あなたと。今夜、またこうして『会えた』から、私はもう、十分」
その手は、ほんの少しだけあたたかかった。
それが消えてしまうものだなんて、どうしても信じられなかった。
「君の名前、教えて」
僕は、最後の願いのようにそう言った。
彼女は、少し驚いたように目を見開いて、そして――
「……ユエ」
月の名を冠したその名前は、静かに夜に溶けていった。
そして彼女は、満月の光の中で微笑んだまま、ひとひらの花びらのように、風に乗って消えていった。
その夜以来、僕はもう一度だけ、月に願いをかけた。
どうか、彼女の魂が、今度こそ誰かとめぐり会えますように。
そして月は、何も言わず、ただ静かにそこにいた。
☆
第五章:月の記憶、花の名残
それから三年が過ぎた。
季節は巡り、仕事も変わり、僕は別の町に住んでいた。
けれど、満月の夜だけは、どんなに忙しくても空を見上げる癖が残った。
ふと、風が吹いた瞬間に思い出す。
あの声、あの笑み、あの白い花の香り。
それは悲しみではなく、祈りに近いものだった。
彼女に名を呼んでもらえなかった僕は、それでも彼女の名前を口の中でそっと唱える。
──ユエ。
その名が、僕の中で小さな光になって残っている。
ある晩、何の気なしに立ち寄った古書店で、棚の隙間に一冊の手帳が挟まっているのを見つけた。
古ぼけていて、名前もないその手帳の一ページ目に、見覚えのある花が挟まっていた。
あの夜、彼女がベンチに置いていた、小さな白い花。
ページをめくると、日記のような、詩のような文字が並んでいた。
『月が満ちるたび、私は誰かを待っていた。
歩くこと。話すこと。
それだけが、私の最後の願いだった。
もしもまた会えるなら、今度は私のほうから名を呼びたい。
あなたの名を、きちんと。
だからその日まで、私は願いを胸に、静かに眠ろう。』
それを読んだ瞬間、心臓が締めつけられた。
この手帳がどこから来たのか、なぜここにあったのか、そんなことはどうでもよかった。
ただ、確信した。
──これは、彼女が残してくれた『想い』だ。
それからの僕は、その手帳を胸に、もう一度だけ願った。
もしも、もしも奇跡があるのなら。
今度は『誰かを待つ』彼女じゃなく、『彼女を迎えに行く』僕でありたいと。
その夜、夢を見た。
月の光に照らされた白い道。
その先に、少女が立っていた。
微笑んで、まっすぐこちらに歩いてきて、今度は彼女のほうから言った。
「おかえり──」
その声は、確かに“ユエ”だった。
朝目覚めたとき、手帳の最後のページに、いつの間にか文字が増えていた。
今度は、あなたの願いが届いたのかもしれないね。
月は今日も空にある。
欠けては満ち、満ちてはまた静かに光る。
そのたびに、誰かの祈りを拾いながら。
そして僕は、今日も空を見上げている。
【完】
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
番外編:『ユエの日記帳』
秋の風が公園を吹き抜けて、紅葉の葉がはらはらと舞い落ちる。
ユエはベンチに座り、膝の上の手帳を開いた。
ページには、まだ何も書かれていない。
けれど、彼女の心には、いくつもの『言葉にならない想い』があった。
彼女は病を抱えていた。
外に出歩ける時間は限られていて、こうして一人で公園に来るのも、ほんの時折の自由だった。
──だけど、不思議と怖くはなかった。
むしろ『限られている』と思うからこそ、こうした時間が何より愛おしかった。
「この道を、誰かと歩けたらなぁ……」
ぽつりとつぶやいて、自分でも少し笑ってしまった。
恋人でも、友人でも、名前も知らない誰かでもいい。
ただ、風を感じながら、隣に人がいて、一緒に一歩ずつ歩けたら──
そんなことを夢見るなんて、子どもみたいだ。
けれど、ユエは心の中でそっと願ってしまっていた。
それはもう、誰にも言わない小さな秘密になった。
家に戻ると、窓辺に月がのぼっていた。
まんまるで、すこし涙が出そうになるほど綺麗だった。
母がそっとお茶を持ってきて言った。
「ユエ、昔から月が好きだったね」
「うん。なんか……全部、見てくれてる気がするから」
母は黙ってうなずいた。
その手には、白くて小さな花が一輪。
「庭に咲いてたの。あなたが好きな花」
ユエはそれを受け取り、手帳の間にそっと挟んだ。
いつか、願いが届く日がくるなら
誰かと、満月の夜に、この花を見ながら歩いていたい。
それが、ユエの日記帳に記された、たった一つの『願い』だった。
そしてその数日後、彼女は静かに眠りについた。
月が満ちる夜だった。
その願いは、空に昇り、やがて満月の光に拾われる。
──十年の眠りのあと、一人の男のもとに届くその日まで。