もし記憶が消せるなら、
「……はぁ!!はっ…はっ…はっ…」
嫌な夢を見た。昔のあのときの生臭い場所。忘れようと色々なものを試したけど、やっぱり頭の何処かに必ずいる。
『火のない年』
それは前代未聞の厄災だった。ライター、マッチ、ガスコンロなど、とにかく火がつくものから火が生まれなくなり、一瞬でこの世から火が消えた。人間たちは大いに騒いだ。
特に一番困ったのは火力発電と日々大量に出てくるゴミだった。電力は他の発電で得られる微々たるもののみとなり、ゴミはどんどん世界を埋め尽くしていった。
「駐屯地の影響かな…?あの心臓を売っちゃった子、多分地元がゴミ置き場になった災害被害者だよね…」
圧縮しても尚、遺棄場を失ったゴミ達は地方の過疎地域に遺棄されるようになった。上は自分が無事ならなんでもいいからね。
「リトルマザー?♪おはようございます、お食事にします…か…ってすごい汗ですよ!お先にお風呂へ行ったほうがいいかと…♪」
「心配かけたね。そうだね、ベルの言う通り先に風呂にするよ」
「…かしこまりました♪」
ミスベルは蚊帳をめくり、浴場までエスコートしてくれた。真鍮でできたその手はヒンヤリしていて冷たく、僕の心を少しだけ落ち着かせてくれた。
「ベル。」「はい、なんでしょう?♪」
「…名前、気に入ってる?」「もちろんです♪」
「安直すぎると思わない?」「いいえ、全く♪」
「そうか、そうなんだね」
風呂はそこまで好きじゃなかったんだ。体の維持が上手くできないときに、お湯と一体化し過ぎて太っちゃったから。
両手でお湯をすくって顔にかける。長い髪の水分を切ってガラスの扉を開ける。
「ちゃぁーんと拭きますよ〜。また廊下をビチャビチャにしないでよね」
「あのときはごめんね、アリッサ」
全身を拭いてから服を着させられ、鏡の前に座るとアリッサ愛用のフォークで髪を丁寧に梳かれた。
「アリッサ。」「ん〜?なにぃ〜」
「その名前好き?」「好きだよお〜」
「他のがよかったとかない?」「あーしっぽくない?」
「…うん、アリッサっぽい」
あのときに僕が産んだ僕の子供たち。全くといっていいほど愛情を込めてあげられなかった名前を持つ子供たち。まだ名付けが出来ていない子もいるのにね。
「アリッサ。」
「なぁにぃ〜」
「お願いだからどこにも行かないで。ずっと今の可愛いままでいて。…僕の知らない君にならないで。」
我等、ただ一つ変わることなかれ。




