I字バランスができるおじさん
煙草の火が導火線に移り、どんどん大砲へと向かう。来夢はもう一度吐き戻しを使って障害物を展開しようと、腹に手を突っ込みながら前に出た。
「殺させたりなんかしない、僕が守るんだ…!」
突っ込まれている手は震えている。責任と恐怖でいっぱいになっていたのだ。その震えを止めるように茶野が肩に手を置く。茶野の灰色がかった目がしっかりと来夢を見つめていた。
振り返ると茶野は脚を高く上げる。勢いよく下ろすと地面に1本の線ができた。
「ウージング」
茶野がポツリと呟く。地面に書かれた線がじわじわ溢れ出てきた。そのじわじわと同時にアームストロングからの憎しみが籠もった砲弾およそ100個が放たれた。もう駄目だと目を瞑る。
だがいつまで経っても着弾音がしなかった。黒澤が恐る恐る目を開けると、茶野と来夢の前に変な丸い凹凸がたくさんあるインクの壁ができていた。そしてそれが大量の砲弾を防いでいたことに気がつくのは、然程時間がかからなかった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??何故防げる?何故?どうして!?what??」
少し透明なインクの壁は反対方向にいるアームストロングを揺らぎながら見せてくる。あまりのことに驚き隠せないアームストロングは、また髪のような車輪をガシガシと強めの手櫛をしていた。
「ならばもう一度…もう一度やるまでだ!」
アームストロングはまた落ちた車輪と大砲の筒を合わせた。今度は人間一人隠せるタイプだった。待つ間もなく5cmほどの導火線に煙草で火を点ける。カウントダウンも無く、来夢たちに砲弾は向かう。
…筈だった。
ボガン…!
アームストロングの目の前で、大砲の尾栓が破裂した。その衝撃は全てアームストロングに向かい、様々な箇所が壊れた。
「これは…」
「彼のベースとなっているアームストロング砲は、薩英戦争の時に戦闘に参加していました。その時は合計で365発を発射しましたが、28回も発射不能に陥ったそうですよ。
他にも旗艦ユーリアラスに搭載されていた1門が爆発して 砲員全員が死亡するという事故が起こったりもしてます。その原因は装填の為に可動させる砲筒後部に 巨大な膨張率を持つ火薬ガスの圧力がかかるため、尾栓が破裂しやすかったことに関係しています。
この状況はまさにそれと言ってもいいでしょう。」
急に自分の知識をひけらかした茶野は、来夢から関心を貰ったが、長年の連れである黒澤と赤木は大いに呆れた。しかし、いつもの感じが戻ったようで安心したと言ったらそれは本当だろう。
《本日のグリストーリー》
来夢は「お父さん、お母さん」
希夢は「父さん、母さん」
怜夢は「パパ、ママ」
と全員それぞれ呼び方が違う。昔はみんなで「パパママ」呼びだったが、希夢が中学になった時期にいきなり変えて、来夢もそれに乗じて変えた。




