ひばり
いつからかはわからないけど、自分を偽ることはとても上手いと思っている
というよりも本当の自分がわからなくなったと言ったほうがしっくりくるだろう
人と関わるのが苦手?
でも人の上に立つのが得意?
人を前にすると喋ることができない?
でも人に指示を出すことはできるし、望んで次期当主として働いている、気がするしどうなのかわからない
何もかもを記憶しているはずなのにわからない
…
「雇用主、貴方様のことはなんとお呼びすればよろしいでしょうか?」
考えていたら西組が語りかけていた
あぁそうか、ここでは僕は来夢ではないんだ
「"ひばり"と呼びなさい」
「かしこまりました、ひばり様」
真面目な西組は深々と頭を下げる
正直に言うと丁寧だろうがなんだろうがどうでもよかった
感情がはっきりしないからか表情は笑ったり、怒ったり、消えたりと迷子になっていた
身内には厳しいや口が悪くなるとはこの事かと思う
沈黙の時間が2人の足を進めると、雰囲気が変わり始めた
人々の声と気配が入り浸っている部屋についたのだった
そこでは自衛隊をもっと知りたいと知識欲や好奇心に溢れた老若男女が溢れていた
すると1人がこちらに向かっていた
「おいおい、おみゃーさん今までどこにいたんだ…ってそちらのお嬢さんは?」
筋肉が身体の大部分を占めているような大男が西組と話す
だけど口調は柔らかで気前のいい兄ちゃんみたいな雰囲気だった
「緑谷上官のご令妹様だ、直々に案内を任されたんだ」
「なるほどな、こりゃ失敬。わしは『西組 大和』。
お兄さんの同期なんじゃ、よろしゅうな」
「祐希の妹のひばりです、こちらこそ兄がお世話になっています」
そう言った来夢を西組 虎右衛門が見た
不思議に思った、一体いつこの人は姿を変えたのかと。
先程までエスコートしていた来夢は全くの別人だった
黒い髪は茶色に、青い瞳は緑に、そして着ていた上質そうな着物は大きく『中ボス』と書かれた黒いTシャツになっていたのだった
地味にダサい服装だったが、そんなことよりいつ着替えたかが虎右衛門の頭を独占していた
「陸上自衛隊駐屯地へようこそ、ひばりさん。
早速これからわしらの仕事内容なんかを説明する時間になるんじゃ。
よかったら他の人らと一緒に聞いていかんか?」
「それはいいですね、是非聞きたいです」
テンプレートのような返答をする来夢は微笑みを『西組 大和』へ向けた
少しは時間潰しになるだろうと考えていた
しかし次の瞬間、大きな爆発音と共に衝撃波が会場全員の身体を震え上げさせた
来夢は笑った。
『お気に入り』の初陣が始まるのだと




