一人ぼっちは僕だけじゃない
黒澤という男はしぶしぶお兄ちゃんの言うことを聞いて使用人と地下室を出ていった
手を握った状態の僕とお兄ちゃんは目が合った
その瞬間お兄ちゃんの顔はニマァという効果音がなるくらいの笑顔になった
口はだらしなくひょうたんのような形を帯び、よだれが出ているし、目はほぼ糸目でこちらが見えているかさえ怪しい
「来夢〜♡久しぶりに兄ちゃんのことを呼んでくれて嬉しいよ、ありがとう〜♡」
うん、お兄ちゃんだ。
会うのも話すのも久しぶりすぎて忘れかけていたけど、元からお兄ちゃんはこんなかんじだった
「う、うん、お兄ちゃんはなにも変わってないね」
「そうか〜♡兄ちゃん結構ヒゲとか生えたり、前より筋肉がついたりしたんだよ〜♡
そういう来夢は父さ…じゃなくて母さんに似て美人だよね~♡兄ちゃんはそんな可愛い来夢の顔がまた見れてよかったよ」
あ…これかなり心配させていたんだな…
確かにあの日から僕は部屋から出ず、家族に顔を合わせなかった
だからってそんなに悲しそうにしないでよ
両手を僕のほっぺたにつけて話すお兄ちゃんはいつの間にか涙を流しているようだった
僕はそんなお兄ちゃんの腕を握って、少し微笑み返した
「…っ!!」
笑った瞬間、息を吸い込んだお兄ちゃんは僕を抱きしめてくれた
お兄ちゃんの胸の中は温かくて、優しい匂いがして、昔に戻ったような気分がした
僕の存在を確かめるようにお兄ちゃんは僕の頭を撫でながら、肩に顔を埋めた
抱きしめ返そうと両手を背中に回そうとするとお兄ちゃんは勢いよく僕を離した
何かを思い出したような顔をするお兄ちゃんは一瞬悔しそうな顔をしながら、口を開いた
「助けてくれないか、来夢…」
お兄ちゃんは泣きながら僕に言った
「どうしたの…?そんな顔しなくても助け…」
「『悪魔』があいつらを狙っている、俺をあの日の来夢ようにするために大切なものを壊そうと企んでいるんだ」
「な、なんで『悪魔』がまた…!」
「わからない、わからないんだよ!俺が外で力を出したこともなければ、素顔をさらしたことだってない!
なのに、気がつけばあいつらの周りに『悪魔』が現れるようになって、最初は歩いているときに花瓶が落ちてくるくらいだったのに、今じゃ夜中に歩いているとやつらに操られた人間に襲われそうになっているんだ
だから少しでも安全なところに居させようと本部に連れてきたんだ…」
一通り話し終えたお兄ちゃんは息を上げながら、涙を流しているようで、とてもじゃないけど正気ではないようだった
僕が一人だったようにお兄ちゃんも一人だったんだ
友達もいるけど、世界が違うから頼ることができなくて、自分一人でなんとかしようと気を張り詰めていたのだろう
でも結果的に状況はどんどん悪化していって、こんなことになったのだろう
「…何人いるの?その守りたいご友人は」
「…9人だよ、全員俺と高校からの友達で社会人になってからもずっと一緒にいるんだ」
「わかった、お兄ちゃんを僕みたいにはさせたくない。一緒に守ろう、その人たちを」
「来夢、ごめん…ごめん!!頼りない兄ちゃんで…」
「いいよ、もうノアくんみたいな被害者を出さないためになら手の震えだって『悪魔』だって怖くないよ」
震える手はより一層震えているが、こんな状態のお兄ちゃんを放っておくほど、僕もひどい妹ではない
景気づけに食べ損ねていた「ベレッタM92FS」の銃口をバキッと音を立てて貪り食った
あまり咀嚼せずに飲み込み、僕はお兄ちゃんに言った
「僕は次期食満家当主『来夢』だ、相手が『悪魔』だろうが、『天使』だろうが救ってみせる!!」