僕かわいい?
希夢は異形のものに近づこうと歩き出した
しかし、それを止めるように『茶野』は希夢の腕をガッシリと掴んだ
「緑谷さん…あれは駄目です…!我々が手を出していい存在じゃありませんよ…!」
掴んだ手は力強かったが、恐怖による震えは止まることを知らずにいた
だが、その言葉を聞いてもなお、希夢の妖艶な笑みが続き、『茶野』はそんな希夢にも背筋を凍らせた
「大丈夫だって。ほら、こんなにも可愛いじゃないか」
指を向ける方には可愛らしさの欠片もない黒い異形が長い舌を大きな口からズルリと出していた
映画の『ヴェ●ム』のようだが、それとは違い影が立っていると表現するのが正しそうであった
意識がはっきりとしているものはこの異形と希夢は絶対に自分たちの世界のものではないと確信せざる得なかった
「おいで来夢、おにいちゃんだよ?」
「クルルルゥ゙…ァ?ア…イギギ、カ゚?…オ、ニィ。チャ゙ン」
『お兄ちゃん』という言葉に反応したのか、異形は体をこちらに向け、頭らしき部分を傾げながら言葉を発した
そして異形は希夢に向かって体を進めた
進み度にズルッズルッと引きずる音が響き、9人は怯えることしかできなかった
あと少しで食われそうな距離まで異形が近づくと、希夢は右手を差し出した
すると異形からとても綺麗に整えられた白い手が出てきた
そこから腕、足、頭、胴体が出てきた姿はまるで舞踏会で暗闇にダンスを申し込んだようだった
全身見える頃には黒澤と青井が見たことのある美しい少女、来夢が希夢の手を握っていた
そして姿を現した来夢の後ろに佇む黒い異形は動いたと思ったら、勢いをつけて来夢の足元にある影へと吸い込まれていった
「お帰り、頑張ったんだな。えらいえらい」
「えへへへ〜僕久しぶりにちょっとガチっちゃったよ」
〜、
〜。
〜!?
〜♪
〜。
こんなにものどかな会話を何度か繰り返しているのを9人は当然普通と思わなかった
先ほどまで人間とは懸け離れた姿をしたものが、悠々としゃべっているのだから
『赤木』や『茶野』は次握りつぶされるのが自分で無いことを祈り始めた
そんな想いが届いたのか届かなかったのか、希夢と来夢の視線は9人へ向いた
笑ったている目は確かに穏やかだが、元からの鋭さによって全員に緊張が走った
「そう言えばお前たちにはまだ紹介していなかったな、俺の妹の来夢だ。仲良くしてやってくれ」




