非日常とは最も日常である
ある程度騒ぎ倒した青井と希夢は膝に手をつけ、ゼーハー…と肩で息をしていた
そして思い出したのだった
あ…!俺、避難させるために来たんだった。
使用人にこいつらを会わせることもできないから自分でやらなくてはいけないのに、呑気に足踏みしている場合ではなかった
「ふぅ…。お前たちには速やかに避難をしてもらう!説明は後でしっかりするから、俺についてこい」
昔から聞いている友達の声に我を取り戻した7人とまともではないが、変な想像をしないでいた黒澤とまたしても自分の体力の無さを実感していた青井は希夢の真剣な空気に巻き込まれた
「どこに行けばいいでしょうか?」
「まずは安全のために、ここから離れて裏口まで行く
正面は襲撃者が湧きまくっているからなるべく近づかないルートでお前たちを案内する」
「あ…あの…み…緑谷…さん…ゼエゼエ…」
まだ苦しそうに息をしている青井は死にそうな目でこちらを見ていた
「なんだ?」
「もうちょっと…休んでから…行きませんか…?ゼエ…」
「却下。行くぞー」
「「「「「「「「はーい」」」」」」」」
青井いじりは彼らの鉄板ネタであったので、少し気が紛れた気がした
「ほら、行くって言ってるでしょ」
「やだぁ…ママー!」
まるで聖母のように優しく諭すように話しかけたのは『赤木』であった
友達の中で一定数はいるママキャラを補う感じのやつだ
わちゃわちゃは止まらず、緊急事態であることを忘れさせ、いつの間にかいつもの会話に戻ってしまっていた
他愛もない話や付き合っている人の話、いつものいじりの対象は今日は『茶野』になり、彼の女性からの好感の無さや彼が結婚するならば、空から炎を纏って女の子が降りてくるくらい無いことだと言った
そして彼らは無事に裏口につくことができたはずだった
そう、ドアを開けて外を見るまでは。
目の前に広がっていた非日常は社会でよく変な奴らと言われている彼らであっても、受け入れ難いことだったからだ
その黒い体?はまるで蛸のようにうねうねと動き、ナニかを宙吊りにしていた
それは短機関銃のようなものを装備…いや腕自体が短機関銃のものが更に異形なものに捻り潰されそうであった
「おのれ…!同族殺しの末裔が!
貴様なんぞ、我らの主によって消滅させられ…」
掴まれていたものは握り潰された。
体を作っていた歯車や鉄板、そしてその体を回っていたガンオイルが地面に垂れ流れ、最初は透明感があったが、どんどん空気に触れたせいか、色は濃くなり、細かな泡を出した
1人は口を抑さえ、1人は吐き出し、1人は過呼吸を起こし、1人はそれを支えていた
全員の頭には『混乱』と『死』の文字が過ぎり、より一層不安を煽り、先ほどの余裕は月明かりへと消えていった
しかしそれは希夢を除いてだった
希夢はその状況に笑顔を零し、まるで愛しいものを見るかのようだった
その表情を見た黒澤の顔は青ざめたが、それと同じくらいに赤くなり、抑えた手の隙間からはニヤリと笑った口と犬歯が見えていた