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2話

周囲の景色を見ながら小野寺小町について考えていた。小野寺小町とは、どういう人物なのだろうか。

 編集部に移動するまでは、きっと清楚で繊細で、周囲から深く愛されているような人なのだろうと思っていた。

 しかし、編集部に移動してからはその考えに迷いが生じた。一代目の担当編集者が定年退職することが決まり、代わりに何人もの社員が小野寺小町の担当を努めようと奮闘したが、一ヶ月続いた人はいなかったらしい。

 編集部の社員はみんなこぞって小野寺小町の担当をしたがらなかった。小野寺小町はわがままで扱いに困る作家だと編集部の間では有名だったからだ。

 正直、少し憂鬱だ。

 憧れの小野寺小町のイメージが既に少し崩れつつある。

 先輩からは「作家に夢は持たない方がいい」とまで言われてしまった。編集にそこまで言わせてしまいくらい作家の世界は汚れてしまっているのだろうか。

 この世界に憧れを持って入った身としては少しショックだ。

「ここらへんなんですけどねえ」

 タクシーを走らせて約一時間。都会の町並みから外れ、木々が見えるようになってきた。道も細くなり、砂利道を走っていた。

 運転し慣れているタクシー運転手でさえ、道に迷ってしまっているようだ。

「もしかしたらさっきの通り過ぎた細い道に入るのかもしれません。戻りますね」

「いえ、ここでおろしてもらって大丈夫です、お手数おかけしてすみません」

 一時間以上運転してもらった上に、細い道を何度も往復させていることに申し訳なくなってしまった。

 それにしても、タクシーで一時間以上ともなると財布が痛い。次からは電車を使って来ることにしよう。

 タクシーを降りてスマホのマップを開く。先程運転手が言っていた細い道に向かってみる。

 スマホの中の矢印は、その細い道を真っ直ぐに指している。車の中からは分からなかったが、かなりの坂道だ。普段あまり運動をしない僕は少し気合いを入れて足を踏み入れた。

 小野寺小町に会えることになり、営業時代に着ていたスーツよりもいいものを新たに仕立てた。身だしなみもしっかりとしなければと思い、ボタンもネクタイもしっかり締めてきたが、この坂道では緩めざるをえない。

 木々が生い茂る中に真っすぐ伸びている一本道。本当にこの先に小野寺小町が住んでいるのだろうか。

 坂道を登り始めて十五分。ただただ真っ直ぐな道を進んでいると、急に広く開けた空間に出た。

 一番に目に入ったのは、ぽつんと建つ立派な一軒家だった。洋館のような見た目で普通の一軒家よりも随分と大きい。三階建てだろうか。

 恐る恐る近づいてみる。表札がなく、本当にここが小野寺小町の自宅なのかは分からない。

 周囲の木々がざわつき始めた。


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