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星の子冒険者  作者: pu8
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星の力は願いの力


 邪が現れてから千年。それは人族に力を持つ者が現れた時期とほぼ同じである。

 邪が活動する範囲外に居住地域を作った人族と獣族だが、より安全な地域程両者の争いは激しく……身体的有利な獣族を、人族は“超感覚”と呼ばれる力で捻じ伏せていった。

 それから百年以上の時が経ち、人族は初めて邪に勝利した。

 以降獣族の立場は加速度的に狭くなり……


(……私達獣族は人を食べた。私達も力が欲しかったから。そして今、人族に対抗できる程の力を私達は得た。村の豪傑が束になれば、邪一匹を追い返せる程に。なのに……なのに……)


 目の前で起こっている事象に、全てが追いつかないミケ。

 村のどの獣族よりも細い身体、華奢な作り。鈍い速度、無駄しかない動き。

 しかしどうしてか……目の前の小さな人族は、邪の首を拳一つで吹き飛ばした。

 

 返り血を浴びたチィの声と邪の雄叫びが、森に響く。


「きゃーーーーーー!!!?!?」

【凄い!! 緑色の粘着性のある液体が、回転しながら吹き飛んでいく首の千切れ目から豪快に── 】

「イヤッ!!! 気持ち悪いから言わないで!!!」

【どんな匂いなの?】

「わけ分かんないくらいクサいからヤメて!!!!」


 ミケから見れば独り言を叫びながら喚くチィ。どうやらもう一匹の邪に気付いておらず、巨大な牙が彼女の頭を喰らおうとしていた。


「チィ!! 後方頭上だ!!!!」

 

 それは確実に喰われる間であった。

 咄嗟に左手で顔を庇うチィ。まるで見えざる巨大な手に往なされるように、邪の牙は空を切る。

 その左手は輝きを放ちながら、星空のように森を照らす。


【よーし、もう一発殴ろう!!】

「イヤ!! 気持ち悪いし吐いちゃいそう……」

【代わりにあの獣女が食われちゃうよ? いいの?】 

「ミケが…………」


 肩で大きく息をするチィ。

 この状況、正常な判断など出来る筈もない。ただ、大木の麓で血を流すミケを見つめると……瞳に涙を浮かべながら、チィは優しく微笑んだ。

 握る右拳が輝きを増していく。


【星の力は願いの力。大丈夫、跡形もなくせばいいのさ!!】

「えいっ!!!!」


 振り抜いたその拳は……星の子が言った通り、邪の跡も形も無くした。 

 深い森の最深部。甲高い轟音が鳴り響き、何もない場所へ突き出ている少女の拳から煙が出る。

 跡も形も無いがその感触はしっかりと残っており、甚過ぎる気持ち悪さ……チィは気絶しかけ体勢を崩したが、身体を引きずりながらやってきたミケに抱き抱えられるように、彼女の腕へと倒れ込んだ。

 

「ふふっ、怖かったぁ……」

「あぁ……私もだ」

「ミケのここ、ふかふかの布団みたいで気持ちいい」

「…………そうか。私も動けそうにない。暫くこのままでいいか?」

「ふふっ、いいの? 私凄い匂いだよ?」

「そうだな、鼻がもげそうだ」


 そんな鼻でミケは笑うと、事後に襲ってくる恐怖感に震えていたチィの身体を優しく抱きしめた。

 確かに強烈な匂いだが、それだけではないことをミケは感じていた。

 人族の、チィという少女の匂いがミケの心に染みていく。

 幼気に抱き返すその姿に湧き上がる不知の感情。溺れてしまわないようミケは大きく息を吸うと……

 真似をするように微笑みながら深呼吸するチィに、溺れ始めていた。


 

 ◇  ◇  ◇  ◇



 邪の寝床である巨木の麓。

 そこから少し離れた所に存在する巨大な切株。邪が圧し折り薙ぎ倒していったものであるが、この木はチィがミケの治療の際に使った水分を豊富に含む木と同種である。

 株の中心は水を蓄える作りになっており、巨大な水風呂でチィは身体や衣服を洗い流していた。


「わぁ……なんだかベトベトしてる……」

【その丸い容れ物には何が入ってるの?】

「これはね、お花から集めた液が詰まってて……凄く良い匂いがするし、汚れなんかもよく取れるんだよ。ほら、良い匂いでしょう?」

【ワタシに聞いても無駄でしょ? 干渉出来ないんだから】

「そ、そっか……でもね、一緒に感じたいの。このお花はね、スーッてする匂いで……えっと、爽やかな感じ? ふふっ。お休みの日の朝に首とかにちょっと付けると、一日が気持よく始まるの」

【…………そっか。いつかお休みの日とやらに嗅いでみたいね】

「ふふっ。ね♪」


 理屈が通じないチィの純粋な心。

 だからこそ、惹かれるなにかがあるのだと……理屈ではないソレを、星の子は感じていた。


「……星の子と会話をしているのか?」

「うん、仲良しなの。ね?」

【そうだね、キミたちの感覚でいえばそうなるんじゃない?】


 一瞬険しい顔をしたミケは、小さく首を横に振り……腕に巻き付けていた布を頭に巻き、何かを決意するよう瞳に力を込めた。


「チィ、この森の隣に私の村がある。ついてきてくれるか?」

「獣族の村……わ、私初めてだけど、大丈夫かな?」

「心配ない。私が側にいる」

「…………ふふっ、うん。なら平気だね♪」



 ◇  ◇  獣族の村  ◇  ◇



「人族……殺す……」

「殺す……」

「殺す……」

「殺す……」


【へぇ、これ殺されるんじゃない?】

「うん、流石に死んだかな……」


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